古の時代。
 世界はただ一つの山と広大な海だけだったという。
 静かな世界にある日、小さな異変が生まれた。
 山の頂に小さな芽が姿を出したのだ。
 その瞬間、世界に《時間》が生まれた。
 太陽と月と風が動き出したのもこの時だ。
 それらは優しく芽をはぐくむ。
 その愛情を一心につけて芽はゆっくりと成長し花を咲かせた。そして、その花はやがて実を結んだ。
 その実の中から一人の女神が生まれるまで、いったいどれだけの時間がかかったのだろう。それを記憶しているものはいない。
 すみれ色の瞳を持った女神は、世界を今の形へと変えていく。
 まずは大地を引き上げ、植物を茂らせた。
 様々な生き物を生みだし、最後に己の姿を映して《人》を作った。
 人が十分に知恵を付けたある日、女神は眠りに落ちた。
 己が目を覚ますのは、世界の終わりの日だと言い残して。
 その女神の眠りを守るために神殿が造られた。
 神殿の回りに人々が集まり、国ができた。
 その国の名をオーブという。

 古き国、オーブには、今でも女神の夢をかいま見ることができる存在が生まれる。
 それ故に、オーブは誰にも侵略されず、どこも侵略することはない。ただ、女神の眠りを守り、世界の平穏を祈ることを理念として存在していた。

 そんなオーブの王家に、双子の赤子が生まれたのは、女神の存在を信じるものが減りつつあった時代だった。


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