「二人とも、大人しくしているならここにいて構わないよ?」
 ギルバートは言葉とともに二人を床に下ろした。
「その方が、君達もいいのではないかな?」
 二人がいれば、自分は逃げ出さないよ……と苦笑と共に視線を大臣達へと向ける。
「別に、そのようなことを心配しているわけでは……」
 慌てたように内務大臣が口を開く。
「わかっているよ」
 そういいながら微笑む彼の表情は、ラウが何かを企んでいたときのそれとそっくりだ。
「ただ、子供達に私が優秀だと言うところも見せておきたいと思ったのだよ」
 そうすれば、きっと、自分を尊敬してくれるだろうからね、と彼は続けた。
「なるほど」
「確かに、姫に陛下のお仕事の様子をお見せするのはよいかもしれませんね」
「レイ殿は、いつもお側におられますし」
 すこしずつとはいえ、ギルバートの手伝いも出来るようになってきているから。大臣の一人がそう告げたときだ。ギルバートは盛大にため息をつく。
「私は、その前に彼に色々と学んで欲しいのだがね」
 そして、自分のやりたいことを自分で見つけて欲しい。
 それが自分の傍からいなくなると言う選択肢でも、自分はそれを認めるだろう。
 彼はさらにそうも付け加えた。
「そうなったとしても、私たちは家族だからね」
 どのような立場にあろうとも家族は家族だ。そういってギルバートは笑う。
「……れい、いなくなるの?」
 ミーアの傍にいてくれないの? と服の裾を引っ張られながら問いかけられる。
「いなくなりませんよ」
 少なくとも今すぐは、とレイは言い返す。
「みーあがおかあさまのようにすてきなれでぃになれるまで?」
 いったい、それは何年後になるのだろうか。
「そうですね」
 そのころまでには、自分がすべき事を見いだせているだろう。レイはそう考えて頷いてみせる。
「わかったわ。みーあ、ぜったい、おかあさまのようにすてきなれでぃになるの!」
 きっぱりと言い切る彼女に、彼は淡い笑みを口元に浮かべながら頷いて見せた。

 小さなため息とともにギルバートが椅子の背に体重を預ける。その瞬間、木が軋むような音を立てた。
「疲れているようですね」
 小さな声が彼の耳に届く。
「やらねばならぬことが多すぎます」
 プラントは、既にこの世界で第一の大国ではない。だが、一番古いオーブの王家の血も引いている故に、周囲の国から知恵を貸して欲しいと言われるのだ。
 それが嫌だというわけではない。
 ただ、もう少し自由になる時間が欲しいのだ。
「しかたがありません。あなたは王ですから」
 王であるという立場を選んだのはギルバート自身。なら、最後までその責任を果たすべきだろう。
 その声は、静かな口調でそう告げた。
「相変わらず手厳しいお方だ」
 苦笑を浮かべながら、ギルバートは言葉を返す。
「もちろん、今の立場を捨てるつもりはありませんよ」
 ただ、と彼は続ける。
「どうやら、レイも予言の子供ではないようなのでね」
 もっとも、それには関係なく自分はあの子を気に入っているが……とギルバートは微笑む。
「それでも、あの方を解放して差し上げられないことだけが心残りなのですよ」
 おそらく、自分たちの子供達、そしてその子供達の世代になればプラントの王家にも《力》を持つものが生まれなくなるのではないか。
 そうなったら……と小さなため息をつく。
「大丈夫ですわ」
 その言葉を否定するように、その声が告げる。
「女神が、必ずお力を貸してくださいますもの」
 それに、と優しい響きが滲む。
「レイだけが王家の血を引いている子供ではありません。まだ、諦めるのは早いですわ」
 きっと、近いうちにまた知らせが来るだろう。その言葉とともに声の主はギルバートの前から去っていく。
「だといいのですが……」
 それでも、希望は捨てるわけにはいかない。ギルバートは自分に言い聞かせるようにこう呟いた。



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