そんな風に日々を過ごしていくうちに、レイも次第に自分が置かれている環境に慣れてきた。
「……ギル……内務大臣が探していましたよ」
 それだけではなく、何故か他の者達からも頼りにされる始末。だが、それが自分だけの実力ではないこともうすうすとは感じていた。
 おそらく、それは本来、ラウが担うべき役目だったのではないか。
 だが、それを引き受けることに文句はない。そう考えられるようにもなっていた。
「まったく彼も……レイに呼びに来られては私が逆らえないとわかっているのかな?」
 本当に、と彼は苦笑を浮かべる。
 そのまま、静かに立ち上がった。
「そういえば、ずいぶんと頑張っているようだね」
 皆がほめていたよ、といいながらレイの頭に手を置く。そして、優しく撫でてくれた。
「でも、もっとワガママを言ってもいいのだよ?」
 そのまま、そう囁いてくる。
「……ですが……」
 他の人々は、とレイは言い返そうとした。
「私はラウの身代わりが欲しいわけではないからね。君は君のままでいてくれていい」
 そんな彼の口を指先で封じると、ギルバートはこう告げる。
「そうでなければ、後でラウに怒られるよ」
 本気でそういっているのだろうか。そう考えながら、ギルバートの顔を見上げる。
「何よりも、君は君だからね」
 こう続ける彼の表情に偽りは感じられない。
「と言うことで、行こうか。他の者達にも、少し釘を刺しておかないと」
 レイの勉強の邪魔をしないように、とギルバートは口にする。同時に、レイの体を軽々と抱き上げた。
「ギル!」
 まさか、そんなことをされるとは……とレイは慌てる。
「だいぶ重くなったね」
 もうすぐ抱き上げられなくなるだろうか、と彼は真顔で付け加えた。
「でも、今はこの方がいいかな」
 君が子供だと周囲の者達に見せつけないと、と意味ありげな表情で付け加えられてようやく例は、何故彼がこんな行動を取ったのかがわかった。
「ギル、俺は別に困っていません」
 今のままでも、とレイは言い返す。
「君は困ってないかもしれないけど、私がいやなのだよ」
 それに、とギルバートは苦笑を浮かべる。
「ミーアが君が構ってくれないとふてくされていてね」
 昨日『嫌いだ』と言われてしまったのだ。そう彼は続けた。
「そういうことだからね。協力してくれないかな?」
 あの子に嫌われるのは哀しい。もちろん、レイにも、だ。
 だが、大臣達ならば、少々嫌われても困ることはない。
 その言葉に頷いていいものかどうか。それがわからないまま、レイはギルバードに抱きかかえられたまま移動を開始する。
 周囲の者達の視線は微笑ましいというものだ。しかし、かなり恥ずかしい。
「ギル……」
 自分で歩けるから、とレイは彼に訴える。
「大丈夫。落とさないから」
 そういうことを心配しているわけではないのに。
 あるいは、この状況を楽しんでいるのだろうか、彼は。レイが心の中でこう呟いたときだ。
「おとうさま、ずるい!」
 どこから姿を現したのか。廊下の真ん中に立ちふさがったミーアが二人をにらみながらこう告げる。
「ミーアも抱っこして欲しいのかな?」
 そんな彼女に向かって、ギルバートは微笑んで見せた。
「……うん」
 小さな声でミーアは口にする。
「おいで」
 ギルバートはそんな彼女に手を差し伸べた。その仕草に、彼女は声を上げながら駆け寄ってくる。
「少しは重くなったかな?」
 ギルバートはそんな彼女の体を軽々と抱き上げた。



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