「……静かだね」
 そう言いながら、キラは周囲を見回す。
「キラ……」
 そんな彼女に、シンが手にしていたマントをそっとかけてくれた。
「風邪ひくって」
「うん、ありがとう」
 言葉とともにキラがふわりと微笑んだ。
 だが、直ぐに彼女は視線をシンから移動する。その先には、今は見えないがアスランとカガリの陵墓があるはずだ。
「本当に、静かだね、ここは」
 もう一度、キラは同じセリフを口にする。
「でも、あそことは違う……ちゃんと生きてる」
 優しい空気に満ちあふれている、と彼女は付け加えた。
「……あぁ、そうだな」
 キラが感じているものと同じかどうかはわからない。だが、ここに満ちている空気が優しいのは、シンにもわかった。
「確かに、ここは優しいな」
 だから、素直にこう告げる。
「キラが戻ってきたから……かな?」
 きっと、それを喜んでいるんだ……とさらに言葉を重ねた。
「そうなのかな?」
 この言葉に、キラは少しだけ首をかしげてみせる。
「僕は……戻ってきてよかったのかな……」
 こんな呟きを漏らしたのは、神官達の姿を見たからなのだろうか。それとも、とシンは顔をしかめる。だが、直ぐにその表情を消した。
「当たり前だろう!」
 代わりに、シンはこう口にする。
「アスラン様やカガリ様だけじゃない。ミゲルさんやカナード様も、みんな、キラをあそこから解放したいって……そう思っていたんだ」
 それは彼等の日記を読んでいればよくわかることだ。
「何よりも、俺が、キラに傍にいて欲しかったんだ」
 だから、そんな哀しいことは言わないで欲しい。そうも彼は言葉を重ねる。
「シン……」
「彼等よりは頼りないかもしれないけど……ずっと、俺が傍にいるから……」
 それじゃ、ダメか? と口にしながらキラの顔をのぞき込む。
「……ダメじゃないけど……でも……」
「なら、お願いだから傍にいてくれよ」
 必ず、幸せにするから……と付け加える。
「シン……」
 その言葉に、キラは目を伏せた。だが、それでも小さく頷いてくれる。
「キラ、好きだから」
 次の瞬間、シンは彼女の体をしっかりと抱きしめていた。

「ようやくですわね」
 まったく不甲斐ない、と口にしたのはミーアだ。
「それはともかく……盗み見というのはほめられた行為ではない、と思うが?」
 あきれたような口調でレイが指摘をする。
「だって……やっぱりキラ様には幸せになって欲しいんだもの」
 誰よりも、と彼女は付け加えた。そのために、自分が出来ることは何でもしたいのだ、とも付け加えた。
「キラ様がシンのことを気にしていたのは気付いてたし」
 でも、流石にあれこれあって自分から動くことは出来ないだろう。だから、シンから行動を起こして貰わなければならなかったのだ。そうも彼女は続ける。
「なのに、シンたら、妙な気遣いばかりだったじゃない」
 本当に、と口にする彼女に、何と言い返せばいいのか。
「まぁ、それもこれで許して上げるけど」
 でも、あの求婚のしかたはダメよね……と彼女は続ける。せめて、花の一つでもおくって上げないと……とそう続けた。
「期待しているから」
 レイに視線を向けると同時に、ミーアはこう言ってくる。
「そ、うか……」
 これは、そう言うことなのだろう、と直ぐにわかった。でも、とレイは苦笑を浮かべる。
「だが、あの二人のことが終わってからでないと」
 特に、ギルバートが大変なことになるのではないか。
「わかっているわよ」
 でも、待たせる分、あれこれ覚悟しておくことね……と付け加える彼女に、苦笑を深めるしかできなかった。



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