逃げるように神官達が帰っていった。それを誰もが喜んでいたときだ。
「変わってしまったのは、世界じゃなく、人の心なのかな?」
 キラが小さな声でこう呟いている声が耳に届く。
「どうしたんだ、キラ?」
 意味がわからない、とシンが聞き返している。
「あの人達には、もう、女神の声は届かないんだね」
 聞こえないんじゃない。聞いてないんだ……と彼女は口にした。
「あの人達は、自分で自分の耳を塞いでいるんだ」
 ひょっとして、全ての神官がそうなのだろうか。そうも彼女は続ける。
「……違いますわ」
 そんなキラの言葉を、ミーアが否定をした。そのまま、彼女はキラの腕に抱きついてくる。
「神官の皆様はともかく、巫女の方々の中には、まだ、女神のお言葉を聞くことが出来る方々が多くいらっしゃいます。問題なのは、神官方がご自分達に都合がいい話だけしか聞きたがらないことだけです」
 そうでないことの方が重要なのに、とミーアはため息をつく。
「いっそのこと、新しい神殿を造ってしまった方がいいのかもしれませんわね」
 巫女達だけを集めて、とそんなことまで彼女は口にした。
「ミーア……」
「でなければ、いっそのこと、神官方に天罰に見えるおしおきをするか、です」
 こちらの方が手っ取り早いだろうか。
「……ミーア……頼むから、その知識を悪用しないでくれ……」
 ばれたときの後始末をするのは自分だ、とレイはため息混じりに告げる。
「ばれるようなことなんてしませんわ。協力者はちゃんと確保してありますもの」
 それに、ばれないようなものを使えばいいのです……と彼女は笑う。
「ばれなければ、何事も『偶然』ですませられますわ」
 それはそうかもしれないが、だからといって、それを公言するのは差し控えて欲しい。
「何よりも、今のキラ様が彼等の言動に責任を負わなければいけない理由はありません」
 彼等が今の状況になったのは、彼等自身の選択の結果だ。ならば、その責任も自分たちで負わなければいけない。
 それが道理ではないか。
「……ミーアって、顔だけじゃなく考え方もラクスに似ている」
 不意にキラがこう言って微笑んだ。
「彼女も、僕が悩んでいるときにはこうやって怒ってくれたし」
 おかしいね。ずいぶんと前にこの世を離れているはずなのに……と彼女は首をかしげる。
「ずいぶん前だから、じゃないのか?」
 また新しい命として生まれてきたのかもしれない。
 シンはそう言って微笑んだ。
「……そう、かもしれないね……」
 そうだといいな、とキラは口にする。
「私も、そうだと嬉しいです」
 ミーアもまた満面の笑みと共に言葉を口にした。
「それよりも、天幕に戻りませんか?」
 いつまでもここで話をしていると、あのバカどもが戻ってくるかもしれないから。そう言いながら、ミーアはキラの手を引っ張る。
「そうだな。せっかくごまかしたんだから、最後までごまかそうぜ」
 シンもそう言いながら彼女の背中を押す。
「ちょっと、二人とも……」
 何? とキラが慌てて二人の顔を見つめていた。
「……仲がいいよな、本当に」
 しかし、ミーアがさりげなく邪魔しているような気がするのは錯覚か? とハイネが呟いている。
「気のせいだろう」
 レイは苦笑と共にこう言い返す。
「シンが気にしていないんだ。俺たちがあれこれ言ってもしかたがない」
 まぁ、あの様子なら彼女を守れるだろう……とも付け加える。
「それが最優先か」
 じゃ、俺たちも行きますか。そういうと同時に、ハイネは歩き出した。



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