しかし、こういう手段を使うとは思わなかった。
 だが、確かにこれが一番無難なのではないか。そうも思う。
「……私が、何でしょうか」
 おどおどとした仕草でマユが神官達に聞き返している。
 彼女が身に纏っているのは、昨日までキラが身に纏っていたドレスとよく似たものだ。きっと、タリアが用意しておいたものだろう。
「君は……」
 しかし、それが彼等にわかるはずもない。
「私たちの養い子が何か?」
 さらに、タリアが毅然とした態度でこう問いかけた。その態度に彼等は一瞬たじろぐ。
「では、その御子が女神のご加護であの禁域を解放されたのですか?」
 だが、直ぐにこう問いかけてきた。
「……違います。私じゃないです」
 そんなこと、しようとも思ったことはない。マユはそう言い返す。
「なら、どうしてあの地に?」
「私が見たいと言ったから」
 こう言いながら、ミーアがマユを守るように前に出る。
「あそこを解放して、あの方を自由にして差し上げるのが王家の悲願だったのだもの。その結果を見に行っていいけないの?」
 言葉とともに彼女は神官達をにらみつけた。そうすると、あの少女らしい言動が中和されるのか、とても気高く感じられる。
「第一、義務を放棄していた方々に何も言われたくありません」
 本来であれば、神官達も《禁域》の傍で女神の助力を祈っていなければいけなかった。それなのに、それをさっさと放棄したのはどちらだ、と彼女はさらに付け加えた。
「第一、今のあなた方を見たら、あの方がどう思われるでしょうね」
 本来であれば、女神のお声を聞きいて民衆を導き、その手助けをするのが神官の役目だ。女神の声を聞けないものも、己の技量を最大限に使って、民衆のために尽くしてきたはず。
 しかし、今の神官達はどうだ。
 己の欲を優先している様はあきれるという感情を通り越して滑稽ですらないか。
「あの方の記憶の中にある神官達の姿とあまりに違いすぎるあなた方の様子を見て、悲しまれるでしょうね」
 それ以前に、あなた方が神官であることすら信じてもらえないのではないか。
「あの方が暮らしていらした時代に、そんな宝飾品をつけた《神官》なんて、いなかったんですよね?」
 言外に、ミーアは今の彼等の服装を非難している。しかし、その言葉は正しいのではないか。
「……ミーアって、きれると義父上そっくりだな」
 感心したような口調でシンがこう言ってくる。
「そうだな」
 確かに、ギルバートの言動にそっくりだ。やはり、親子なのだな、と改めて認識をする。
「レイの方が似ていると思ったんだけど、な」
 ギルバートには、とシンはさらに言葉を重ねた。そう言ってもらえるのが嬉しいのはどうしてなのだろう、とレイは思う。
「むしろ、あれはタリア様に似ているのかもしれないぞ?」
 そんな彼等の耳にハイネのこんなセリフが届く。
「……それは……」
「あえて言わないようにして置いたものを……」
 ため息とともに二人はこんなセリフを口にする。
「それは悪かったな」
 でも、とハイネは視線をミーア達に戻した。
「どちらにしても、しっかりと神官殿達を撃退したらしいことには代わりがないが」
 流石、と言っていいのか? と彼は問いかけてくる。
「国を継ぐ立場の人間だからな、ミーアは。当然かもしれない」
 苦笑と共にレイは言葉を返す。
「……ミーアはキラが大好きだしな」
 声を潜めると、シンはこう告げた。
「彼女の本領は、誰かを守ろうとするときに出てくるのかもしれないな」
 しかし、だとするなら彼女に関する認識を少し改めた方がいいのか。
「まぁ、さっさとお帰り頂けるなら何でもいいんだけどな」
 ハイネのこのセリフが、他の者達の本音でもあるのだろう。
「大丈夫か?」
 不意にシンが隣にいる人物に向かって囁いている。騎士達と同じ服装をしたその人物が《キラ》だとは思っていないのだろう。神官達は一度も視線を向けることをしない。
「ともかく、終わったら休もう」
 そう囁くシンに、小さく頷いているのが見えた。



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