ミーア達の存在がよい隠れ蓑になったのか。それとも、騎士達の数に恐れをなしたのか。
 キラがいるにもかかわらず、神殿の者達が接触してくることはなかった。
「だからといって、気を緩めるわけにはいかないだろうな」
 これからが厄介なのではないか、とレイは呟く。
「確かに」
 次はアスランとカガリの陵墓だ。
 言葉は悪いが、アスランはともかくカガリはオーブ最後の女王、と言うこともあってあそこには神官が常駐しているのだ。
「良くも悪くも、彼女は目立つからな」
 髪の毛の色だけならば、よくあるものだと言えるかもしれない。しかし、あれだけ鮮やかなすみれ色は……とハイネはため息をつく。
「マユが似たような色彩を持っているから……親戚でごまかせる可能性はあるがな」
 でなくとも、王家の末裔にはたまにでる色彩だ。それで押し通すしかないだろう。何よりも、とレイは付け加える。
「今回はタリア様が一緒だからな」
 彼女の目をかいくぐってキラだけを連れ出せるはずがない。だから、それに関しては心配しなくていいのではないか。
「問題は……正攻法で来られたときの方かもしれない」
 正式な手順で面会を求められたときの方が、とレイは付け加えた。
「逃げようがないからな、その時は」
 ハイネも同意をしてみせる。
「……でも、その前に逃げるから、俺がキラを連れて」
 一体どこから話を聞いていたのか。シンがいきなり口を挟んできた。
「もっとも、義母上がごまかしてくれると言っておられたから、心配はしていないが」
 それでも、万が一の時には実行するから、その時は後始末をよろしく……と彼は笑いながら付け加えた。
「心配するな、シン」
 そんな彼の肩に、ハイネが手を置く。
「その時は、護衛として俺も一緒についていてやるから」
 後のことはレイに任せておけばいい。そう言いきられて、言われた当人の方が驚いてしまう。
「ハイネ!」
 何なんだ、それは……と思わず言い返してしまった。
「今回の墓参の名目が、タリア様とミーア様のワガママ、って事になっているだろう? それなら当然、お前が一緒にいなければいけないってことじゃないか」
 自分はあくまでも近衛の一人だから、いなくても誰も何も言わないはずだ。そう言って、ハイネは笑みを深める。
「……まぁ、そうだな」
 マユもおまけだし、とシンも頷いて見せた。
「……お前達、な」
 そう言う問題なのか。そう問いかけたい。
「そう言う状況になったら、後で覚えていろよ?」
 万が一の時には、しっかりと報復をさせて貰うことになるから……と代わりにレイは口にする。
「覚悟はしているけど」
 でも、とシンは苦笑を浮かべる。
「まぁ、その前に気付かれない可能性が高いかもしれない」
 そう言いながら、彼は視線を女性陣が使っている馬車の方へと向けた。
「義母上が『今から準備をしておくから』とおっしゃっておられたんだよな」
 おかげで、自分は追い出されたのだ。シンのこの言葉に、レイは首をかしげる。
「いったい、何をしていらっしゃるんだ?」
 タリアのことだから、キラのためにならないようなことはしていないだろうが、と付け加えた。
「……俺が聞きたい」
 でも、キラも納得をしているようだから。シンは自分に言い聞かせるようにこう呟く。
「直ぐにわかるって」
 それよりも、とハイネは目をすがめる。
「歓迎できない連中が来たようだぞ」
 とりあえず、タリアに連絡をした方がいいのではないか。そう告げる彼に、レイは眉根を寄せる。
「まったく……言霊というものなのか、これは」
 逃げ出す好きもないな。ため息とともにハイネがはき出した言葉に、ただ頷いて見せた。



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