シンも、どうやらそれなりに考えてはいたらしい。
 そして、キラの方もそれを受け入れているようだ。二人の距離が次第に近づいていくのがわかった。
「しかし、もどかしいよな」
 それはそれで微笑ましいのだが、とハイネが苦笑と共に告げる。
「いいのではないかね?」
 だが、それをギルバートが否定した。
「キラ様はまだ今の世界に戸惑いを覚えていらっしゃるようだからね」
 あれこれ性急に進めては混乱されてしまうに決まっている。
「シンも、それを感じているのだろう」
 だから、焦らずにキラが落ち着くのを待っているのではないか。そう彼は続ける。
「俺もそう思います」
 レイも頷いて見せた。
「だから、ミーア達もシンがいるときには出来るだけ遠慮しているんだそうだ」
 もっとも、シンの独り占めが長時間に及ぶときには、遠慮なく邪魔しに行くが……と言われて、首をひねってしまったことも否定しない。
「まぁ、シンもまだお子様だし……焦って破局するよりはいいんでしょうが」
 やっぱり歯がゆいよな、とハイネは付け加える。
「なら、君が少し背中を突き飛ばしてやるのだね」
 もっとも、力加減を間違えないように。そうギルバートは口にする。
「わかりました」
 せめて、婚約だけでも決めてくれないと、騎士団の独身連中が妙に浮き足立ってまずいのだ。ハイネはそう主張をする。
「おやおや。そう言う君も独身じゃなかったのかな?」
「自分には、ちゃんとそれなりの相手がいますから」
 時期が来れば、誰かふさわしいと思える相手を選ぶ……と彼は笑った。
「なるほど」
 流石、と言うべきなのか、それとも……とギルバートが頷いている。
「そうおっしゃるあなたも、お若い頃はかなりのものだった……と父に聞いていますが?」
 そんなギルバートが唯一本気で追いかけたのがタリアだったとも。だから、二人の結婚が決まるまで、周囲の者達はやきもきしていたのだ……とも聞いている。そうハイネは付け加えた。
「おやおや。これは一本取られたね」
 ギルバートはそう言って笑い返す。
「あら。何の話ですか?」
 まるでそのタイミングを待っていたかのように、タリアが姿を現した。
「何。シンが少し不甲斐ないのかもしれない、と言う話だよ」
 そろそろ、もう少し進展してくれてもいいのではないか。そう思ってね、とギルバートは直ぐに言い返す。
「あら、そうでしたの?」
 小さな笑いと共に彼女は聞き返してきた。と言うことは、やはり最後のあたりは聞かれていたのかもしれない。
「ところで、そのシンからお願いをされたのですが……引き受ける前に一応、許可をいただこうと思いまして」
 うまくいけば、よい結果を聞けるかもしれないことだ。そう言ってタリアは首をかしげる。
「何かな?」
 話を聞かせてもらおう、とギルバートは口にした。
「キラ様を城から連れ出したい、と言っていましたわ。あの森が今どうなっているのか、彼女が自分の目で確かめたいと」
 その後で、アスランとカガリの眠っている場所に足を運んでみたいのだ、と言っているらしい。
 もっとも、二人だけでは、何かあったときに対処が取れないのではないか。そう言ったならば、ミーア達も一緒に行くと言われたのだとか。
「シンとキラ様だけならば、わたくしの一存で、とも思いましたけど、ミーアも絡んでいるのでは許可をいただかないと」
 もちろん、自分も同行するが、護衛の騎士も選んでもらわなければいけない。
「……そうなると、私だけが居残りかな?」
 当然、レイも行くことになりそうだからね……とギルバートは視線を向けてくる。
「……否定は出来ません……」
 ミーアがあれこれ言って自分を引っ張り出すだろう、と言う想像は外れないはずだ。
「当然、君も行く気だろう?」
 今度はハイネへと視線を向けながらギルバートは口を開く。
「仰せの通りです」
 こんな楽しいこと、とハイネが笑い返す。
「そう言うことだからね。許可を出さざるを得ないかな?」
 ともかく、キラが外部に興味を持ったことはいいことではないか。そう思いたい……とギルバートは口にした。



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