キラの存在を気付かせないように、レイ達は早急に城へと戻った。
「お帰り」
 そんな彼等をギルバートは寝ずに待っていてくれたらしい。
「どうやら、無事にキラ様を解放してきてくれたようだね」
 そう言いながら微笑んでいる彼の表情が、どこか寂しげに思えるのは、光の加減なのだろうか。
「義父上……」
 シンもそれに気付いているのかもしれない。どこか心配そうな声音で彼に呼びかけた。
「とりあえず中へ。今、タリアが、そちらの方の部屋を整えている最中だ」
 女性をいつまでも馬上に置いておくものではないよ、と彼は付け加える。その表情はいつもの彼のものだ。
 と言うことは、やはり気のせいだったのだろうか。
 きっと気のせいだったのだろう、と自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
「シン。馬はハイネに任せて、君はそちらの方と城内に入っていなさい」
 さらにギルバートはこう言って彼等を促す。
「はい」
 シンは慌てて馬上から滑り降りる。
「キラ」
 そして、馬上に残っていた彼女に向かって手を差し伸べた。
「大丈夫。一人で降りられるから」
 そんな彼に向かって、キラは微笑みと共にこう言い返している。
「いいから、いいから」
 疲れているだろう? とシンはさらに主張をした。彼の表情はあくまでも真摯なものだ。それがわかったのだろう。キラは小さなため息とともに彼の手に自分のそれを重ねる。
 重さを感じさせない仕草で、そのまま彼女は馬の背から降りた。
「レイ」
 お前もいけよ、とハイネが声をかけてくる。
「だが……」
「馬のことなら心配いらないって。それよりも、これからのことを話し合う方が重要だろう?」
 その席に、レイが同席するのは当然だろう……と彼は続けた。
「……わかった」
 確かに、そうしたいという気持ちはある。だが、自分の分の馬までハイネ達に任せておいていいものか、と悩んでいたことも事実なのだ。
「すまないが、頼む」
「了解」
 その言葉を耳にして、レイは馬の背から降りる。そして、手綱をハイネへと預けた。
 同じように、シンは傍にいた騎士に己の馬の手綱を手渡している。
「では、行こうか」
 城門は閉じておくように、とギルバートが命じる声が周囲に響いた。
 それに関しては、誰も違和感を覚えない。夜、城門を開けておいたことの方が異例だったのだ。
 しかし、とレイは心の中で呟く。
 ギルバートの本意は別の所にあるのではないか。おそらく、彼が心配しているのは《神殿》の動きだろう。
 それについても後で彼等と話し合いをしなければいけないのではないか。
 もっとも、しばらくキラの耳には入らないようにしておかなければいけないだろう。
「とりあえず、早々に話を終わらせて、キラさんには休んで頂くようにギルには言わないと」
 でなければ、喜びのあまり何をしでかしてくれるかわからない。もっとも、彼は大人だから、その程度の分別は持っていてくれるのではないか。
「でなければ、タリア様に声をかけておくか」
 彼女なら、きっとキラの体調を優先してくれるだろう。
「シンも、今ひとつ信用できないしな」
 冷静なように見えて、内心では舞い上がっているはずだ。だから、と思いながらレイは歩き出す。
「キラ、こっち」
 彼の前をシンがキラの手をひきながら歩いている。
 その様子がどこか微笑ましい。
 やはり、あの二人には幸せになって欲しい……と考えてしまう。
「そのために、俺には何が出来るんだろうな」
 この呟きに、言葉を返してくれるものは誰もいなかった。



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