一晩経っても、シンは戻ってこない。
「……中の様子がわからない、と言うのがこんなに辛いものだったなんて……」
 今までは待っているにしても自分は城に残っていることが多かった。だから、実際に立ち会うことなんてなかったのだ。
「まぁ、いつものことだけどな」
 だが、ハイネはこう言って笑う。
「落ち着かないって言うなら、俺たちと一緒に、周囲の巡回をするか?」
 何かしていれば、気が紛れるぞ……と彼は続ける。
「いえ、俺は……」
 だが、それではシンが戻ってきたときに立ち会えないかもしれない。そう思えば、この場を動くこともはばかられる。だから、とレイは彼の誘いを断った。
「大丈夫だって」
 しかし、ハイネは笑みを深めると言葉を重ねる。
「今までの通りならばともかく、今回は事情が事情だろう?」
 だから、戻ってくる前に絶対予兆があるはずだ。彼はそうも付け加える。
「そうだろうか」
「そうだって。それに、シンのことだ。出てきたら『腹減った』と言い出しかねないぞ?」
 あいつはああ見えても結構食い意地がはっているし、と言われて思わず頷いてしまう。
「本当に、あれだけ食べても太らないのは感心しますよ」
 女性陣には恨みを買っているようだが……とレイは苦笑と共に付け加える。
「そりゃな。女性陣にしてみれば、恨みにも思うだろうさ」
 好きなだけ食っても体形が変わらないというのは、とハイネは笑い声を響かせた。
「まぁ、その分、あいつは動いているけどな」
 あれだけ動いているから、その分、食べているのかもしれないが……と彼は続ける。
「だから、きっと、成功しても失敗しても、腹は減らしてくると思うぞ」
 なら、何か用意しておいてやらないと……と言われれば、そうなのかもしれないと納得するしかない。
「と言うわけで、狩りをするわけだ」
 付き合え、と言いながらハイネはレイの首に腕を回してくる。そして、そのまま、引きずるようにして歩き出す。
「ハイネ!」
 自分は『行く』とは言ってないだろう! とレイは言い返した。
「いいから、いいから」
 諦めて付き合え、と彼は続ける。
「大丈夫。シンが帰ってくるまでには戻れるからさ」
 どうして、そう言いきれるのか。
 しかし、彼には彼なりの根拠があるのだろう。
「ハイネ!」
「ついでに、薬草でも探しておけば、ミーアの機嫌だけではなく、あの方の歓心を買えるかもしれないぞ」
 レイの言葉を聞いているのかいないのか。彼はさらにこういった。
「……何故、ミーアが……」
 関係あるのか、とレイは思う。
「そりゃ、一緒に来ると騒いでいたあの方をおいてきたからに決まっているだろう?」
 こうなれば、彼の王子さまにご機嫌を取ってもらわないといけないだろうが。ハイネはそう言い返してくる。
「あの子の機嫌は、別に俺が取らなくてもいいだろう」
 むしろ、シンに取らせろ……と言いたい。
「俺じゃ無理だし……シンはきっと、しばらく、あの方の傍にいた方がいいだろうからな」
 今の時代に、彼女が顔見知りと言えるのはシンだけだろう? とハイネは口にする。せめて、今の世の中になれるまで、シンが傍にいるのが一番いいのではないか。
「……そう言うことか……」
 言われてみればそうかもしれない。
 自分たちは彼女のことをそれなりに知っている。しかし、彼女にしてみればシンだけが世界との窓口だったのだ。そのシンが傍にいることが彼女にとっては重要なのだろう。
 それは理解できた。
「しかし、な!」
 それとこれとは違うだろう! と叫ぶレイの言葉は、綺麗に無視されたのだった。



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