「とりあえず、準備を整えてからにしろ」 今すぐ飛びだしていきそうなシンの襟首を捕まえながら、レイはこういった。 「なんでだよ!」 これがあるのに、とシンは剣を握りなおしながら怒鳴り返してくる。 「今が夜だから、だ」 それに対して、レイは静かな声でそう言い返した。 「はぁ?」 何でそれが理由になるのか。そう言いたげな表情でシンはレイの顔を見つめる。 「どのような事態が起こるかわからないのだろう? なら、体調はきちんと整えておくべきだ」 それに、とレイはさらに言葉を重ねた。 「夜は女神のご加護が弱まる。あの方を助け出すのに適していると思えない」 はやる気持ちはわかるが、最善の結果を得るためには最適の条件をそろえるべきではないのか。そう言えば、シンは悔しげな表情を作る。 「……そうかも、しれない……」 それでもこう言ってきたのは、彼なりに思うところがあるからだろう。 「失敗して、キラを悲しませるのはいやだ」 このセリフからも、それは十分に伝わってくる。 「そう言うことだ」 だから、睡眠は十分に取った方がいいだろう……と微笑む。 「それに、黙っていくとミーア達が怒るぞ?」 最後のとどめとばかりに、こう言えばシンは複雑な表情を浮かべた。 「……ミーアが怒るのかね」 いや、彼だけではなくギルバートまでもが複雑な表情を浮かべている。それに何と言い返そうか、とレイが悩んでいたときだ。 「あいつも、キラに興味があるみたいだから」 だから、自分が仲間はずれにされるのはいやみたいだ……とシンが先に口を開く。 「なるほど、ね」 それは、育て方を間違えただろうか。それとも……とギルバートは呟いた。 「悪いことじゃないと思います。少なくとも、キラを解放できたなら、俺よりもミーアの方が彼女のためになるかもしれない」 自分は、女性のことに疎いから……とシンは付け加える。 「まぁ、それはしかたがないだろうな」 自分だって、そうかもしれない……とレイも苦笑と共に頷いて見せた。 「心配しなくていい。私も、未だに《女性》のことはわからないことも多いからね」 一生かかっても全てを知ることが出来ないのかもしれない。いや、自分たちが知ることが出来ることなど、本当は僅かなものなのではないだろうか。 「まぁ、そう言うことならミーアだけではなくタリアもあてにできると思うよ」 苦笑と共に彼はこう締めくくる。 「それよりも、まずはここから出よう」 いつまでもここで話をする必要はないだろう、とギルバートは言う。 「そうですね」 確かに、話をするのにふさわしい場所とは思えない。だから、とレイはシンへと視線を向ける。 「そうですね。これ以上、ここには探さなきゃないものはないようですから」 これを手にした瞬間、引っ張られるような感覚はなくなった。シンはそう告げる。 「では、明日のことをもう少し確認したら、シンは寝なさい」 後のことは自分たちでも出来る。だから、シンは少しでも体を休め万全な体勢を取れるようにしなさい……とギルバートは微笑む。今度は、シンも素直に頷いて見せた。 「……どうやら、貴方のおっしゃるとおりになりそうですよ……」 部屋に戻った瞬間、ギルバートは微笑む。 「良かったこと」 そうすれば、彼女はこう言って微笑んだ。 「ですが、まだですわ。まだ、終わったわけではありません」 これからが本番なのだ。そういう少女に、ギルバートは小さく頷いてみせる。 「明日、シンはあの方の元に向かうと言っております」 あの子に貴方のご加護を……というギルバートに、少女はふわりと微笑んで見せた。 |