ギルバートが落ち着いたのではないか。その時間を見計らって、レイはシンと共に彼の元を訪れた。 「……宝物庫に?」 流石の彼も、シンの希望には驚いたようだ。目を丸くしている。 「多分、そこにあるはずなんです」 カナード・バルスが、キラのために残したものが。シンはきっぱりとした口調でこう言い切った。 「日記に、それらしい記述があるんです」 だが、シンのこの言葉を耳にして、彼は不審げに眉を寄せた。 「君達と同じ年齢の頃、一度その日記は読んだことがあるが……その記述には気付かなかったね」 気付いていれば、きっと、自分はキラを解放するために動いただろうに。ギルバートは小声でそう付け加える。 「ここにはっきりと書いてありますよ」 何で気付かなかったのでしょうか、といいながら、シンはあるページを開いてギルバートの前に差し出す。 「……ずいぶんと、インクが薄いな」 確かに、何か書かれているのはわかる。でも、読み止めるかどうかと言えば難しいとしかいいようがない。 「薄い? 俺にははっきりと読めるぞ」 しかし、レイの言葉にシンは即座にこう言い返してきた。 「……確かに、薄いね」 昔、何故ここに意味もなく空白の箇所があるのかと思っていたが……とギルバートも呟くように告げる。 「私の記憶違いでなければ、ここには何も書かれていなかったのだよ」 さらに続けられた言葉に誰もが首をひねった。 そんなことがあるはずがないのに、とレイは心の中で呟く。 「あぶり出しでもあるまいし」 そんなことが可能なのか、とシンはシンで口にした。 「あぶり出し、ね」 しかし、ギルバートはそれで納得できる何かを見いだしたのか。小さく頷いている。 「ギル?」 「おそらく、ずっとそこに書かれてあったのだろうね。ただ、その資格のないものには決して読めないような術を施されていたのではないかな?」 だから、自分をはじめとする者達にはそこに書かれてあることが読めなかった。 しかし、シンは違う。 彼にはその資格がある、とそう認められる何かがあったのだろう。だから、ここに書かれていることを読むことが出来た。 「私たちがそれを認識できたのは《シン》と言う存在がここにいるからだろうね」 自分たちが彼の手助けが出来るようにと言うことなのではないか。 「もっとも、はっきりと見えないのは、自分たちにその資格がないからだろう。 そう言われれば、確かに納得できる。 「シンがいるから、ですか」 それだけ、カナードは《キラ》のことを思っていたのだろう。その気持ちがこの日記のことからでも十分に伝わってくる。 「義父上?」 それで、とシンは言葉を口にした。 「もう少し待ってくれるかな?」 ほんの僅かだが、この文字が濃くなってきているように思える。だから、ひょっとしたら内容が確認できるかもしれない、とギルバートは言い返す。 「確かに。俺たちも内容を確認できれば、動きやすいか」 レイも頷いたことで、シンはとりあえず納得したらしい。 「わかりました」 でも、出来るだけ早くお願いします……と彼は続ける。 「わかっているよ」 苦笑と共にギルバートは頷いた。 「今日中に、宝物庫を開けられるようにしてあげるよ」 だから、しばらく座って待っていてくれるかな? と彼は続ける。そうして貰った方が早く終わらせることが出来るよ、と小さな笑いを漏らした。 「はい」 シンはこう言って頷く。 「暇なら、そこにある書類を読んで、後で意見を聞かせてくれるかな?」 さらに付け加えられた言葉に彼は頬を引きつらせる。それは彼が苦手としている内容だからだろう。 「……わかりました……」 それでも、こう言い返してくるのは、少しでも意識を何かに向けておかないと焦燥感にさいなまれると本人もわかっているからだろうか。 だが、それはギルバートや自分も同じだ。 そんなことを考えながら、レイはそっと視線をカナードの日記へと落とした。 |