それから半月後のことだ。
「レイ……」
 夜更けに近い時間、いきなりシンがレイの部屋に顔を出した。
「どうかしたのか?」
 こんな時間に、とレイは言外に聞き返す。
「……義父上が戻ってくるのはいつか、知っているか?」
 許可を貰いたいことがあるんだ、と彼は続ける。
「許可? ギルの?」
 自分ではいけないのか、とレイは言外に問いかけた。
「だって、お前じゃ宝物庫は開けてくれないだろう?」
 多分、宝物庫で何かが見つかるんじゃないか。そう思うんだ……とシンは口にする。
「って言うか……あの方なら、あそこに隠すと思うんだよ」
 一番安全だから、とさらに付け加えた。
「見つけたのか?」
「……はっきりとはわからないけど、多分……」
 と言うよりも、どうして今までそれを見つけられなかったのか不思議だ。そうシンは口にする。
「他人の日記なんて調べようと思わなかったのかもしれないけどさ」
 でも、直ぐにわかるところに書いてあった……と付け加えた。
「そうなのか?」
 カナードの日記なら、自分も一度目を通したが、そんな記述には気が付かなかった。そう言い返す。
「そうなのか?」
 でも、はっきりと書いてあるぞ……とシンは首をかしげている。
「ひょっとしたら、そのあたりにも、何か秘密があるのかもしれないな」
 シンにだけ読めるような仕掛けがしてあったのかもしれない。レイはそう呟くように口にした。
「どちらにしろ、ギルに相談しなければいけないのは事実か」
 シンの言うとおり、宝物庫を開ける権利を持っているのはギルバートだけだ。タリアやミーアですら自由に入れない。そして、正しい手順以外であそこに入ろうとするものがいれば、罠が作動するようになっているとも聞いている。
「明日の昼には帰ってくるはずだ」
 相談をするとすればその時だろう。レイがこう言えば、シンは静かに頷いてみせる。
「その時には、実物を見せた方がいいと思うが……」
「わかっている。ちゃんと持っていくって」
 でも、その前に見なくていいのか? とシンはレイに問いかけてきた。
「ギルと一緒で構わない」
 でなければ、ギルバートがふてくされるのではないか。
「まぁ……義父上なら、仲間はずれにされたと言い出しかねないけど」
 レイの不安は口に出さなくてもシンには十分に伝わったらしい。
「これに関してだけは、ギルもミーア達と同じだからな」
 その気持ちは十分にわかるが。レイはそう言って苦笑を浮かべる。
「ひょっとしたら、俺よりも義父上の方がこだわりが大きかったのかもしれないって、たまに思うよ」
 でも、とシンは続けた。
「義父上には、この国を守らなければいけない義務があった。でも、それじゃきっと、ダメだったんだろうな」
「シン……」
「だから、そんな義務がない俺が選ばれた。ただそれだけだと思う」
 自分だって、この国をよくしていきたいという気持ちはある。でも、それよりもキラをあそこから解放したい。そして、幸せにしてやりたい。その気持ちの方が大きいのだ。
「レイには悪いと思うけど、さ」
 自分が担わなければいけない義務まで押しつけているような気がする。シンはそう言いながら、真っ直ぐに彼の瞳を見つめてきた。
「気にすることはない。お前があの人を救いたいと思っているのと、俺がギルの手助けをしたいと思っているのは、ほぼ同じくらいの強さだと思っている」
 だから、シンが気にすることではない。そう言ってレイは微笑む。
「それに、俺もあの方には幸せになって欲しいからな」
 シンがその役目を担ってくれるなら、自分はその手助けをするだけだ。そう続けた。
「レイ」
「人には、それぞれ一番があると言うことだろう?」
 その言葉に、シンは頷いてみせる。そして、ふっと笑った。



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