「おそらく、女神がお認めになられたのだろうね」
 自分たちにキラを任せてもいいと、とギルバートは口にする。
「ならば、そのご期待に応えなければいけないだろうね」
 彼の言葉にシンはしっかりと頷いて見せた。もちろん、レイにしても同じ気持ちだといっていい。
「確かに」
 と言うことで、頑張れ……とレイは綺麗な笑みをシンへと向ける。
「当たり前だろう!」
 ようやく、前に進めそうなんだから。そう言うシンの表情は、今までのそれとどこか微妙に変わっているような気がした。
 同時に、どこかで見たことがあるような気がするのは錯覚だろうか。
「ともかく、ミーアがカナード様の日記を探してきてくれて……ハイネがミゲル・アイマンの日記を持ってきてくれないことには、先に進めないかもしれないけどな」
 問題は、自分がそれを読めるかどうかだ……と彼は付け加える。
「それこそ、頑張ってもらうしかないだろうね」
 苦笑と共にギルバートは言葉を口にした。
「手助けをしてやりたいが、君一人でやらなければ意味がないことだろうしね」
 この言葉にはレイも同意だ。
「わかっています」
 自分がやらなければいけないことだと言うことは、とシンは言い返す。
「ただ……面倒くさそうだなって思っているだけで……」
 キラのためでなきゃ、と呟く彼に思わず笑みが浮かんでしまった。
「その気持ちは、確実に伝わるだろうな」
 それで十分ではないのか。レイはそう問いかける。
「……だといいけど、さ」
 でも、キラが受け入れてくれなくてもいい。それよりも、彼女に今の世界を見せてやりたいのだ。シンはそう告げる。
「キラが覚えている人は、もう居ないけどさ。でも、その血を引く人間はいるんだし……そうでなくても、変わってないものだってあるはずだろう?」
 それを見せてやれるだけでも十分だ。そう、彼は続けた。
「その前に、何とかしなきゃないんだけど……」
 で、それは自分が何とかしなければいけないわけなのだが……とシンはため息をつく。
「そういうわけですので、義父上」
 だが、直ぐに真顔を作ると彼はギルバートを見つめた。
「図書室を自由に使う許可をください」
 特に、希少本を呼ばれている本を自由に閲覧できるようにして欲しい。
「レイやミーアと違って、俺は許可を貰わないと読めませんから」
 それではまだるっこしいし、とシンは言う。その言葉にどうしたものかという言うような視線を、ギルバートはレイへと向けてきた。
「本がどれだけ大切なものなのか、わかっているわけだな」
「もちろんだろう?」
「なら、構わないか……ただ、奥の希少本に関しては、先に俺かミーアに声をかけてくれ」
 その方が早く探せるはずだ。そう彼は笑う。
「……信用してないわけか?」
 俺のことを、とシンは問いかけてくる。
「違う。俺もあの方をあそこから解き放ちたいと思っているだけだ」
 そのためにはその方が早くて確実だと思っている、とレイは言い返した。
「それに、ミーアは無視すると後が厄介だからな」
 苦笑と共に彼は続ける。
「ミーアか……」
 確かに、無視すると厄介だな……とシンも頷いて見せた。
「おやおや。あの子はいったい何をしでかしているんだい?」
 何やら、聞き逃せないセリフがあったようだが……とギルバートが問いかけてくる。
 それに何と言葉を返せばいいのか。気がゆるんでいたな、とレイは慌てる。
「何を、と言うよりも……多分、仲間はずれが嫌なんじゃないかと」
 とりあえず、と言うようにシンが言葉を返した。
「ミーアにとっても《キラ》は憧れのお姫様ですから」
 それにフォローをするかのようにレイもこういう。
「だから、自分も関わっていたいのではないかと思います」
 無難な理由が見つかってよかった。心の中でそっと安堵のため息をついているのはない書だ。もっとも、ギルバートにはばれているような気もするが。
「あの方が解放されたら、別の意味で騒がしくなりそうだね、ここは」
 それはそれで楽しいことだろう。そう言って笑うギルバートの表情からは、それはわからなかった。



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