流石に締め付けすぎたのだろうか。シンがふらりといなくなった。
 こんな時、彼が行く場所は一カ所しかない。だから、それに関してはいいのだが、今、自分が追いかけるわけにはいかないのだ。
「……ハイネ、すまないが……」
 仕方がなく、顔見知りの彼に声をかけた。
「わかってるって」
 出てくるあいつを待っていればいいんだろう? とハイネは笑いながら言い返してくる。
「ちゃんと連れて帰ってくるって」
 シンにしても、どうしてレイ達があんなことをしていたのかはわかっているはず。ただ、ちょっと気分転換に行きたかっただけだろう。そう言って彼はレイの肩に手を置く。
「ここしばらく大人しくしていた反動もあるって」
 真面目に勉強をしていたから気分転換に行きたかったんだろう。彼はそうも続ける。
「そうだと思います」
 本当はもっと早く、その事実に気付かなければいけなかったのに。そう考えてレイは唇を噛んだ。
「こらこら。見えるところに傷つけるとミーアが怒るぞ」
 そんな彼にからかうようにハイネが声をかけてくる。
「ミーアは……」
「関係なくないだろう?」
 どう見ても、と彼は笑いながら言い返す。
「本人は昔から『レイはミーアの王子さま』って言っているんだし」
 未だに他の女性陣を牽制しているのは、そう言うことだろう? と彼はさらに言葉を重ねてきた。
「彼女のはただ独占欲だと思うが……」
 ずっと一緒にいたから、他の人間に取られたくないと思っているだけだろう。自分に好意を抱いていないとは考えていないが、それでも、恋愛感情とは違うのではないか。レイはそう考えていた。
「どうだろうな」
 まぁ、それに関してはゆっくりと考えればいい。
 そう言うと、彼はきびすを返す。
「ハイネ?」
「一応、団長の許可を貰っておかないとな」
 内容が内容だから、無条件ででるとは思うけどな……と彼は付け加える。
「形式が必要ってことか」
「そう言うこと」
 じゃ、ちゃんと連れて帰ってくるから。この言葉を残してハイネは歩き出す。
「まったく、あいつは……」
 そんな彼の背中を見送りながら、レイは思わずこう呟く。
「皆にどれだけ迷惑をかけていると思っているのか」
 もっとも、と直ぐに考え直す。それよりも《キラ》を優先できる人間でなければ女神は彼を選ばなかったのではないか。
「……あの方の幸せを祈っているのは、俺たちだけではない、と言うことだな」
 女神にすらそれを望まれているのだ。
「やっぱり、シンを締め上げるのはやめられないか」
 彼女を幸せに出来るようにならなければいけないのだ。そう認められなければ、彼女を解放することは出来ないのではないか。
「俺個人としては、あいつは十分な力を持っているとは思うが……それを言うと、いきなり学ぶことを放棄しそうだからな」
 絶対に教えてはやらないが。そう付け加える。
「ともかく、帰ってきてから話し合うか」
 それに関しては、とレイは呟く。
「もっとも、俺にその余裕があれば、だがな」
 色々と厄介な案件が増えている。何故か、最近、この国に流入してくる人々が増えているのだ。
 その理由も調べなければいけないだろう。
「土地があれば、解決しそうな問題がほとんどだがな」
 しかし、それは難しい。だから、他の解決方法を考えなければいけない。難しいが、不可能ではないはずだ。
「とりあえず、出来ることから手をつけるべきだな」
 そのためには現状がどうなっているのかを的確に把握しなければいけない。そう呟くと彼もまた歩き始めた。



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