それから、いくつの季節が巡っただろうか。
 ギルバートやレイだけではなくミーアにまで尻を叩かれたせいか、シンは城内でも一目置かれる存在になっていた。もっとも、それはレイに対するものとは違っていた。
「それでいいのだよ」
 そのことを気にしているらしいシンに、ギルバートはこう言って微笑んだ。
「君は君だろう?」
 それに、と彼は笑みを深める。
「皆が君に望んでいることと、レイに望んでいることが違うと言うことだよ」
 それとも、レイが望まれているようなことを君も望んで欲しいのかね? と言われて、シンは慌て手首を横に振った。
 はっきり言って、無理としか言いようがない。
 レイが今していることですら、今の自分の手に余る。
「だろう?」
 苦笑と共にギルバートはこういった。
「だからね。そんなに悩む必要はないのだよ」
 それに、シンにしかできないこともあるだろう。そう聞かれても、直ぐには思い出すことが出来ない。
「俺に、ですか?」
 いったい、それは何なのだろう。そう思いながら聞き返す。
「そう。君にしかできないことだよ」
 たくさんあるよ、とギルバートは続けた。
「……わかんないんですけど、俺」
 本当に、自分しかできないことというのは何なのだろうか。そして、何を望まれているというのだろう。そう考えて、シンは首をひねる。
「自分で見つけないと、意味がないことだからね。頑張って考えなさい」
 こういう時のギルバートは厳しい。直ぐには答えは教えてくれないのだ。
「わかりました」
 でも、考えても答えが見つかるのだろうか。そう心の中で呟く。
「お話がそれだけなら、失礼して構いませんか?」
 ちょっと調べたいことがあるのだ、とシンは付け加える。
「もちろんだよ。でも、夕食の後にまた時間をもらえるかね?」
 レイと一緒に、と付け加えられたことで彼が何をしようとしているの、想像が付いた。
「はい」
 ギルバートの言葉にシンは頷いてみせる。
「では、話の続きはその時にしよう」
 その言葉を聞き終わってから、シンはその場を離れようとした。だが、直ぐにあることを思い出して足を止める。
「シン?」
 どうしたのかな、とギルバートは即座に問いかけてきた。
「すみません、報告をするのを忘れてました」
 ギルバートに伝えて欲しいと頼まれていたのに、とシンは慌ててまた彼の方へと体の向きを変える。
「西から大神殿へ向かう橋が落ちたそうです。それと、南の方で流行病が広がりつつあるとか」
 緊急を要するのはその二点だと思う。彼はそう続ける。
「西から大神殿へ向かう橋、と言うと……確かその奥には小さな村があったね」
 しかも、そこに向かう道はそれしかないはず。ギルバートはそう言って眉根を寄せる。
「はい。丁度報告に来る途中で、俺が行き会ったので……」
 本人が疲れ切っていたので、自分が先にそれを伝えようと思っていたのだ。忘れなくてよかった、とシンは真顔で付け加える。
「確かに。すこしでも早く知らせて貰ってよかったよ」
 直ぐに手配をしよう。その言葉に、シンはほっと安堵のため息をつく。ギルバートがこう言ってくれたのだ。直ぐに誰かが調べに行くはずだ。そして、戻ってくる頃には修理の手はずが整っているだろう。
「では、失礼します」
 約束を破らずにすんでよかった。
 そう考えながら、シンは改めて頭を下げる。そして、今度こそ、ギルバートの前を後にした。



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