それからは、シンはちょくちょくキラの元へと足を運ぶようになった。
 もっとも、それに関してはこちらもなれてきたと言えるのか。即座に見回りの体勢を整えられるようにもなってきた。
「まぁ……無理はしないようだからな」
 それに、シンは自分の義務をおろそかにしていないのだから、いいのだろう。レイがこう付け加えれば、傍にいたミーアが小さな笑いを漏らす。
「ミーア?」
 どうかしたのか、と視線で問いかける。
「何か、レイってシンの保護者みたいなんだもの」
 まさかこんなセリフを言われるとは思っていなかった、と言えば嘘になる。しかし、そうかもしれないという自覚もあるのだ。
「しかたがないな、それは」
 苦笑と共に彼は言葉を続ける。
「あいつは目を離すととんでもないことをしそうだ」
 それでシンに何かあれば、みんなが悲しむだろう? とそう聞き返す。
「……それは否定できないわね」
 特にマユには、とミーアも頷いてみせる。
「私も、シンがいないと寂しいと思うし」
 でも、それとこれとは違うような気がする……と彼女は首をかしげた。
「同じだよ」
 いなくなって寂しいと思うから、いなくならないように事前に注意をしておくべきなのだ。そう言ってレイは微笑む。
「それに……シンを止められないからな」
 大切な人に会いに行きたい。その気持ちを止められる人間がどれだけいるだろうか。
「やっぱり、恋は人を変えるのかしら?」
 レイの言葉を耳にして、ミーアはこう問いかけてくる。
「どうだろうな」
 恋に限らず、誰かと出会うことによって変わっていくものは多い。ただ、シンの場合、それが《キラ》との出会いだったと言うだけではないか。
「人と人の関係も、時と共に変わっていくものだしな」
 変わらないものなんてないのだ、と付け加える。
 死んだ人間だって人々の記憶の中で徐々に変わっていくものだ。だから、とレイは少しだけ寂しげに続ける。
「でも、それは人々の記憶の中でその人が成長しているってことでしょう?」
 それはいいことではないのか、とミーアは首をかしげながら口にした。
「そうかもしれないな」
 レイも静かに頷く。
「だが、それも生きている人間が覚えていてくれるからだろうな」
 そう考えると、ラウは幸せなのかもしれない。自分だけではなくギルバートも覚えていてくれるのだ。いや、彼だけではない。他にもまだ彼を覚えていてくれる者がいる。それだけで十分だろう。
 だとするなら、キラは? とそんな疑問がわき上がってきた。
 彼女の話を知っているものは多い。
 だが、本当の彼女を知っているものはもう誰もいないはず。
 ひょっとしたら、だからシンは足繁く彼女の元へ通っているのだろうか。
 生身の彼女のことを知っているものがいる。
 そう伝えたいのかもしれない。
 もちろん、それだけではないことも否定できないが。
「それにしても、シンったら……まだ、あの方をあそこから連れ出す方法を見つけられないのかしら」
 手がかりの一つや二つ、見つけて来ればいいのに。ミーアはため息とともにこう告げる。
「そう簡単に見つかるものなら、他の人々が見つけているものではないのか?」
 シンだって、あれこれ探しているのに……とレイは思わず言い返してしまう。
「それはわかっているんだけど……」
「……それに」
 ふっとあることを思いついて、彼は呟く。
「それに、なぁに?」
 ミーアが興味深そうに問いかけてくる。
「今、あの方が解放されても、シンの方が外見も中身も年下だな、と思っただけだ」
 それでは、解放した後に彼女を守れないのではないか。
「……あぁ。そうかもしれないわね」
 確かに、今のままではキラは他の誰かのものになってしまう可能性もある。だから、シンがふさわしいと思える人間になれるまで、誰かが手がかりを隠しているのかもしれない。ミーアもそう言って頷いてみせる。
「なら、シンにはもっと頑張って貰わないと」
 私、お姉様が欲しかったの……と言う少女に、レイは苦笑を浮かべるしかできなかった。



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