季節が変わっていく。
 それを感じた瞬間、シンが何かそわそわし始めた。もっとも、本人はそれを隠しているつもりらしい。
「見ていれば、バレバレだが」
 あれで気付かれていないつもりなのか。レイは思わずそう呟いてしまう。
「まぁ、シンだから、な」
 しかたがないのか、と苦笑を浮かべる。
「……そろそろ、一人で動きたくなる時期か」
 馬も自由に扱えるようになった。そして、それなりに自分の身も守れるようになってきている。そう言うときは、こっそりとあれこれやりたくなるものではないか。
「俺がそうだったからな」
 一度だけ、そうやって城を抜け出したことがあった。
 もっとも、行き先なんて一カ所しかない。だから、と言うわけではないのだろうが、直ぐにギルバートが迎えに来てくれた。
 いや、先回りされたという方が正しいのか。
 自分がラウの墓の前にたどり着いたときにはもう、そこにギルバートが待っていたのだ。
「そう考えれば、シンの行きたいところは一カ所か」
 彼女の所だけだろう。
 しかし、それは一番厄介な状況だといってもいい。
「森に入られては、出てくるのを待っているしかできない」
 もし、シンが森の呪いに捕らわれてしまったらどうすればいいのだろう。
 足を踏み入れたとしても、キラが気付かないことだってあるのではないか。
 そう考えた瞬間、レイは恐怖を感じた。
 ラウを失ってしまった反動なのだろうか。身近にいる存在を失うかもしれない。それだけで足元が不安になってしまう。
「ダメだな、俺は」
 ギルバートの補佐をし、いずれこの国を支える人間になる。それが自分の希望だ。
 だが、そのような立場になれば、いつどのような状況に直面するかわからない。大切な人間を失うようなことだってあるはずだ。
 そのようなときに冷静な判断を下せなくてどうする。
 自分を叱咤するようにレイは心の中で呟いた。
「とは言っても……シンのことは別だな」
 それは自分だけの問題ではない。他の者達にも大きな影響を与えるのではないか。だから、とレイは心の中で呟く。
「ギルに相談をして……とりあえず、直ぐに対処できるようにしておいた方がいいか」
 それに、と付け加えた。
「図書室へ行けば、あるいは、何か手がかりが見つけられるかもしれない」
 調べるための時間はある。
 それに、その手がかりは必ずシンの役に立つはずだ。
「森にはいることは出来ないが、フォローなら出来るか」
 自分に出来ることをすればいい。
 それで最終的に彼女を解放することができれば、シンや自分だけではなく、ギルバートの願いも叶えられる。
「とりあえず、シンの監視だな」
 森に行くのはいい。
 だが、その事実が自分たちに伝わるようにしておかないといけないだろう。
 そう判断をすると、ギルバートの元へ向かうためにレイは歩き出した。

 しかし、レイの行動は一歩遅かった。
 体勢を整え終わったときにはもう、シンは一人で《禁域》へと向かっていたのだ。
 レイがその事実を知ることが出来たのは、シンが彼が普段使っている机の上に書き置きを残していったからだった。
 走り書きで一言『キラに会いに行ってくる』と書かれたそれを見て、レイはため息をつく。
「……直接話せば、止められると思ったのか?」
 それにしても、これはないだろう。そう思わずにはいられない。
「また、ギルの仕事を邪魔してしまうことになるな」
 それでも報告しないわけにはいかないだろう。そう判断をして、今、歩いてきたばかりの道を戻るためにきびすを返した。



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