しかし、そう言うことに関しては抜かりがないのがハイネ・ヴィステンブルグという男だ。
「レイ、見て!」
 変わった花を抱えながらミーアが駆け寄ってくる。
「シンとハイネが『おみやげだ』っていって、持ってきてくれたの!」
 珍しいお花なの、と彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「ミーア達のために探してくれたんだって」
「……そうか……」
 これでは、彼女たちの前で迂闊にシンを怒鳴れないな……とレイはため息をつく。
「二人とも、港の方までいってきたみたい。お父様にお願いしたら、ミーアも『行っていい』って言ってくださるかしら」
 これは、海辺の方に咲いている花だから、と彼女は続ける。
「海の方か」
 それならば、シンがあそこに足を踏み入れようとしても出来ない。それがわかっているから、ハイネは目的地をそちらにしたのだろうか。
「そうだな……その時は俺も一緒に、と言えば許可して頂けるかもしれないな」
 自分とシン――それに後何人か――がいれば、護衛という点でも大丈夫だろう。タリアにも同行してもらえればさらに安心かもしれない。
「お母様にもお願いしてみればいいわね」
 同じ事を考えていたのか。ミーアもこう口にする。
「確かに。たまには、気分転換に出かけるのもいいだろう」
 シンも馬になれてきたようだしな、とレイは笑う。
「ミーアだけじゃなく、マユ達も一緒なら、誰も文句を言わないと思うぞ」
 みんなで出かけるのもいいのではないか。その表情のままそう告げる。
「うん。お母様にお話ししてみる」
 ギルバートに話をするのはその後の方がいいだろう。そう告げる彼女の判断は間違っていない。
「そうだな」
 確かに、その方がギルバートの仕事を邪魔することなく計画を立てられるだろう。レイもそう言って頷いてみせる。
「なら、直ぐに相談してくる!」
 ミーアはそのままきびすを返そうとした。
「その前に、花に水をやらないとかわいそうだぞ」
 この言葉に、彼女は一瞬目を丸くする。
「そうだった! せっかく、シンが根を付けたまま持ってきてくれたのに!」
 枯れてしまう、と彼女は行く先を変更した。
「転ばないようにな」
 そのまま慌てて自分が管理している庭園へと向かう彼女の背中に、レイは声をかける。
「わかっているわ」
 振り返ることなく彼女はこう言い返してきた。
「最近、ますます落ちつきがなくなったな」
 シンの影響か? それとも……と呟きながら、レイもまた体の向きを変える。
「とりあえず、話をしてこないとな」
 そして、そのまま歩き出した。

 レイの視線を感じなくなったところで、ミーアは足を止める。
「懐かしいこと」
 そして、小さな声でこう呟く。
「シンが、これを選んだのは偶然かしら」
 それとも、と彼女は首をかしげた。
「どちらにしても、彼とあの人の間に絆があると言うことだわ」
 だから、と彼女は呟く。
「それを途切れさせないようにしないと」
 それこそが、自分たちが待ち望んでいたことなのだ。
 だから、と呟きながら再び歩き出す。その光景は誰の目にもとまることはなかった。



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