今日も、ラウのために摘んだ花を持って通い慣れた道を歩いていった。 しかし、何か様子が違う。 普段、ここに自分以外の気配を感じることはない。なのに、どう見ても騎士――それも貴族ではないか――と思われる人間がラウの墓へと通じる小道に立っていた。しかも、彼はレイの顔を見て驚いたように目を丸くしている。 しかし、その理由を聞きたいとレイは思わない。 いや、自分を取り巻く世界に興味がなくなってしまったと言った方が正しいのかもしれない。 きっと、ラウが死んだあの日から自分の心のどこかが壊れてしまったのだろう。 自分を必要としてくれる人はいない。 だから、死んだとしても構わないのではないか。 それでも積極的に死ぬことを選ばなかったのは、ラウの言葉があったからだ。 『友達を作りなさい』 彼には村内とはなかっただろう。だが、レイにとっては、彼の言葉は絶対だ。だから、それを果たさないうちは死ねない。友達を作ることなく死んだら、きっとラウに怒られる。 でも、とレイは小さなため息をつく。 どうやれば友達が出来るのか、自分は知らないのだ。 母が死んでから今まで、ラウ以外の人間と触れあうことはほとんどなかった。ラウは近くの村の者達の相談を聞いていたようだが、その場に自分が立ち会ったことはない。 いや、生まれてから今まで、自分と同年代の存在にあったこともなかったのだ。 だから、他の人との関係をどうやって築き上げていけばいいのか、レイは知らない。 「……教えておいてくれればよかったのに」 どうやって、友達を作るのか。 こんな呟きを漏らしながら、さらに奥へと進んだ。 そして、あと少しでラウの墓に着くと言うときだった。反対側から誰かがこちらに向かってくることに気付いたのは。 ほぼ同時にレイの姿に気が付いたのだろう。豊かな黒髪と琥珀色の瞳を持った男性は、レイの姿を見つけて目を丸くしている。 「君は……」 だが、直ぐに彼は穏やかな笑みを口元に浮かべた。それは、どこかラウのそれに似ている。 そんなことを考えていれば、彼は静かに歩み寄ってきていた。そして、レイの目線に合わせるように膝を着く。そんなことをしては上質な生地で作られたズボンに泥が付くだろうに、と意味がなく考えてしまった。 「君がラウの子供だね」 そして、微笑みながらこう問いかけてくる。 「……貴方は?」 彼の問いかけに答える代わりに、レイはこう聞き返した。 「ラウの友人だよ」 連絡を貰って慌てて押しかけてきたのだが間に合わなかったようだね……と彼は視線を落とす。 「でも、君に会えた。それだけでも嬉しいよ」 彼は直ぐに視線をレイへと移動させるとまた微笑みを浮かべる。 「大丈夫。君は私たちが引き取るよ」 ラウが望んだように、大勢の友人が出来るような環境を与えて上げよう。そう彼は続けた。 「……どうして……」 ラウの友人だというのはわかった。しかし、どうしてそこまでしてくれるのか。 「簡単なことだよ」 彼はさらに笑みを深める。 「私と彼は友人だから、だよ」 わけがあって、袂を分かつことになった。しかし、その程度で自分たちの友情が壊れたわけではない。 「今まで彼が私を頼ってくれることはなかった。そんな彼の最後の願いを叶えるのは当然のことだよ」 もっとも、と彼は首をかしげた。 「君がここにいたい、と言うのであればそれなりの手はずを整えるが」 どうしたい、と聞かれてもすぐには言葉を返すことが出来ない。 「少し、考えさせてください」 直ぐに答えを出せ、と言われても無理だ……と言外に告げる。 「もちろんだよ」 その代わりに、と彼は微笑む。 「今晩は君達の家に御邪魔させて貰って構わないかな?」 幼い頃のラウの話をしてあげるよ。この言葉、レイは無意識に頷いていた。 |