しかし、こんなことが起きるなんて、予想もしていなかった。
「シン?」
 一緒に、森の中に足を踏み入れたはずだった。それなのに、何故、自分は森の外にいるのだろうか。
 それよりも、どうして自分の隣にシンの姿がないのだろうか。
「……まさか……」
 森に入れないものは、こうして、元の場所に戻ってしまうことがあるとは聞いている。つまり、自分はここに入れないのだ。
 その事実が少し残念だ。
 そう感じるよりも、シンがここにいないと言うことのほうがレイには衝撃だった。
「あいつは、ここに入れたのか……」
 シンは子供だから、きっと戻ってこられるだろう。
 あるいは《キラ》に会えるかもしれない。
 だが、とレイは唇を噛む。
「問題は、いつ帰ってくるか、だ」
 あの森の中は、微妙に時間の流れが外とは違っているらしい。だから、本人が一瞬だと表いても、外ではその何倍も時間が過ぎていたと言うこともあり得るのだ。
「……俺一人の手には余るな」
 ここでシンを待っているべきなのかもしれない。
 しかし、いつ戻って来るともわからない彼を待っていれば、皆をさらに不安にさせるだけだ。
 それに、とレイはきびすを返す。
「同じ場所に、戻ってくるとは限らないんだ……」
 一人で、この森を全て見回ることは出来ない。
「ギルに相談しないと……」
 自分は無力だ。
 そのことはよくわかっているつもりだった。しかし、それをここまで認識させられたのは初めてかもしれない。
 だから、もっと色々と学ばなければいけないのだ。
 そう考えながら、飛びつくようにして馬に乗った。

 息を切らせながら、レイはギルバートの元へと駆け込む。
「どうしたんだい?」
 珍しいね、と彼はレイの姿を見ながら、微笑んだ。
「シンが……」
 早く伝えなければいけない。そう思うのに、うまく舌が動いてくれない。まるで、何かに張り付いてしまったかのようだ。
「シンが、どうかしたのかな?」
 そう言えば、彼を怒らせてしまったね……とギルバートはあくまでものんきな声音で続ける。
「それで、彼がまた、何か壊したのかな?」
 元気がいいのはともかく、八つ当たりをする性格だけは何とかしないと。こう言って、彼はため息をつく。
 しかし、それらの言葉をレイは認識できていない。
「シンが、禁域の森に入ってしまいました!」
 どこに行ったのか、自分では追いかけられません……とレイは続ける。
「森に?」
 言葉とともにギルバートは腰を浮かせた。
「あのこの事だから、何かをやらかすとは思っていたが……そこまで直接的な行動に出るとは……」
 むしろ、自分たちがそのような直接的な行動に出ないから想像も付かなかった、と言うべきか。そう彼は呟く。
「ともかく、まだ一度目だから、無事に出てくるだろうが……」
 それでも、いつ、どこから……と言うのはわからない。
「とりあえず、俺はまた戻りますが……ミーアとマユが何を言い出すかわからないので、そちらはお願いして構いませんか?」
 流石に、馬もない状況で一人で放置しておくわけにはいかないだろう。
「待ちなさい。君一人では大変だろう」
 それに、レイまで夕食の席にいなければ、あの二人が不安に思うだろうし、とギルバートは続ける。
「ギル……」
「男の子の好奇心を甘く見ていた私のミスだよ」
 苦笑と共に彼は視線を向けてきた。
「それに、私は彼も可愛いと思っているからね」
 彼を失いたくないよ、とそう言う。それはレイも同じだ。
「……はい、ギル……」
 だから、静かに頷いて見せた。



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