いったい、ギルバートに何を言われたのか。戻ってきたシンは難しい表情をしている。 「シン?」 しかも、レイの姿に気が付かないと言った様子で、真っ直ぐに縄文の方へ向かっている。 それが悪いというわけではない。 自分たちはここに閉じ込められているというわけではないのだ。だから、レイも、気分転換に城門の向こうへ行くことはある。 しかし、今のシンの姿は気分転換とは思えない。 むしろ、何かをやらかしそうだ、と言った方が正しいのではないか。 「追いかけるか……」 あの調子では周囲のことなんて見えていないだろう。第一、どこまで徒歩で行こうとしているのか。 「厩に行って、馬を借りてくるか」 その方が確実に追いつけるだろう。それに、何かがあったとしても対処しやすい。 シンのことだ。納得するまで『戻る』と言わないような気がする。 だから、と思いながらレイはきびすを返した。 「こうなれば……自分で確かめに行ってやる」 禁域だからってなんだって言うんだよ……と呟きながら、シンは歩いている。自分が追いついたという事実も気付いていないらしい。 それはそれでどうなんだ、とレイはため息をつく。 「……だからといって、歩いていこうというのは無謀だ……と思うが?」 本気で歩いていくつもりだったのか。 ここから禁域の森までどれだけの距離があるのか、わかっているのか?そう問いつめたい。 「なんでここにいるんだよ!」 シンは振り向くと、馬上のレイを見上げてくる。 「あんな表情で抜け出したお前を放っておけると思うか?」 ため息共にレイはこう言い返す。そのまま、彼は馬から降りた。 「放っておけばいいだろう!」 こういい返すと、シンはそのまま歩きだそうとする。しかし、それよりも早くレイは手を伸ばして彼の体を捕まえた。 「それに」 そして声を潜めると言葉を口にする。 「俺も、あそこには行って見たい、と思っていたからな」 直ぐそばに住んでいたとはいえ、近寄ることを許してはもらえなかった。だからちょうどいいと言えばちょうどいいのだ、とも。 「……レイ、お前……」 シンがその言葉に目を丸くしている。だが、直ぐに彼は何かを言い返そうと口を開きかけた。 しかし、今までの生活の中で彼の性格はある程度はアクできている。 「それに、あまり遅くなるとマユが心配するぞ」 静かにこう言えば、シンはぐっと言葉に詰まった。 「……俺は……」 次第に、その顔が赤くなっていく。それは怒りのため、だろうか。 「お前の、そういうところ、嫌いだ!」 そして、こう叫んだ。 それが、ミーアが癇癪を起こしたときとよく似ているような気がするのは錯覚だろうか。 同じ年だというのに、まるで弟のように思えるのはそのせいかもしれない。 それに、彼が本気でそう言っていないことも、だ。 「わかっている」 微苦笑と共にレイは静かな口調でこう告げる。 「だから、今はおとなしく馬に乗ってくれ」 そうすれば、早くたどり着けるぞ。この言葉に、シンは渋々といった様子で頷いてみせる。 「じゃ、行こうか」 今から馬を走らせれば、昼過ぎぐらいにはたどり着けるだろうか。そう考えながら、レイは鐙に足をかける。 「……お前と、相乗り?」 「いやか?」 一人で乗れるのであれば、城に戻ってもう一頭、馬を借りてくるが……とレイは言い返す。 「……いい……」 まだ、一人で乗れない。そう言って頬をふくらませるのは、悔しさのせいだろうか。 「直ぐに覚える」 練習の機会なら、直ぐに与えられるだろう。 「ただし、尻が痛くなるから覚悟しておけ」 これは、実体験からの忠告だ。 「……覚悟しておく……」 シンが小さな声で呟く。それに、レイは笑いを漏らした。 |