うち解けてみれば、シンは付き合いやすい相手だった。 粗野なように見えて、実は細やかな心遣いをすることや妹を誰よりも大切にしている。そんな彼の言動は、見ていて心地よい。 ただ、暴走しやすいのだけが問題だろうか。 しかし、それは長所にもなり得る。もっとも、それもシン次第だろうが、とレイはどこか冷静に考えていた。 でも、亡くなった父親のような存在になりたいと考えているのであれば大丈夫だろう。 彼等の父親がどれだけ素晴らしい人なのか、それは周囲の者達が教えてくれたのだ。 「レイって、凄いよな」 だが、シンはシンの方でこんな感想を持っていたらしい。 「凄い?」 どこが? と真顔で聞き返してしまう。自分には彼にそう言われる要因が見つけられないのだ。 あるいは、自分のことだから、なのかもしれない。 「どこがって……」 まじで言っているんだよな? とシンが言い返してくる。 「お前って、何でも知っているじゃん。それに、もうギルバートさんの手伝いもしているし」 それだけでも凄い、と彼は付け加えた。 「それは……そうなるように勉強をしてきたからだ」 その時期がシンよりも長い。ただそれだけのことだ、とレイは言い返す。 「でも、凄いって。マユなんて、すっかりお前を王子さま扱いだぜ」 自分なんてどうでもいいと思っているのではないか。普段の言動からそれが感じられる……とシンはため息をつく。妹大事の彼のことだから、かなりショックなことらしい、とその表情からわかる。 「でも、ミーアがな。お前は自分のだ、と言って顔を合わせるたびに口げんかをするんだぞ」 巻き込まれる身にもなってくれ、とシンはため息とともに続けた。 「それは……諦めてくれ」 自分ではどうしようもない、とレイは苦笑と共に付け加える。 「……そんな……」 レイだけが頼みの綱だったのに、とシンは言い返してきた。 「人の心はどうすることも出来ないだろう?」 でも、とレイはさらに言葉を重ねる。 「おそらく、あの二人が俺のことで騒いでいるのは、身近にいる《他人》だから、かもしれないぞ」 ミーアに関しては、ギルバート達のすり込みがあるのかもしれないが。そう言ってレイはため息をつく。 「あの人達は、俺の父に妙な夢を持っているからな」 ラウが凄い人だったのは否定しない。 ただ、記憶の中の人になってかなりの時が過ぎている。だから、他人から見れば『美化されている』と思われてもしかたがないのかもしれないが。そうも続けた。 「そんなことはないだろ」 シンは即座にこう口にする。 「父親が尊敬できないようなくずなら、お前みたいになるわけない」 尊敬できない親を持っている人間は、少しでも尊敬したいから、尊敬できる理由を無理矢理探す。そして、それを他人に向かっても主張するんだ……と彼はさらに言葉を重ねた。 「俺のようなガキから見ても、おかしいって思える親はたくさんいたから」 もっとも、それでも親は親なんだよな……と妙に達観したセリフを告げる。 それだけ、彼が色々な人間を見てきたと言うことだろう。 「そういうものなのか?」 ここに来るまで、ラウと二人だけで隠れるように暮らしていた自分には、とうてい出来なかった経験だ。 それがうらやましいと思わないわけではない。 だが、ラウとの二人きりの生活がいやだったわけではないのだ。 そのどちらを選べと言われたら、きっと、自分はラウとの生活を選ぶだろう。 「そう言うもんだって」 もっと嫌な話もあるし……とシンは顔をしかめる。しかし、そこから先の言葉を口にしようとはしない。 つまり、自分には知らせたくないような内容なのだろうか。 「それよりもさ……お前《禁域の森》って、行ったことがあるか?」 話題を変えるかのように彼はこう問いかけてくる。 「入ったことはないが……そばに住んではいたぞ」 あそこに入ってはいけないのだ、とラウに言われていた。だから、勝手に足を踏み入れようと思ったことはなかった。 「何で?」 しかし、シンは予想外の言葉を返してくる。 「何故って……入っては行けない場所だから、に決まっているだろう?」 昔からそう言われている。そして、そう決めたのは自分たちの祖先でもあるアスランとカガリだ。 「……そんな昔の人間の言葉って、守らなきゃいけないものなのか?」 その理由がわからない。シンは首をかしげている。 「お前、禁域に関わる話を知らないのか?」 「父さんが、嫌いだったから」 そう言う話、と彼は続けた。そんな彼に、あの話をどう伝えればいいのか。 自分にとっては、それが日常で疑う余地のない現実だった。ギルバート達も同じだ。しかし、彼は違う。 「……お前も知らないのか?」 悩んでいるレイの様子からそんな誤解を抱いたのか。シンはこの言葉とともに立ち上がる。 「シン?」 「義父上に聞いてみる」 そして、この言葉とともに駆け出していった。 「シン!」 慌てて彼を止めようと声をかける。しかし、レイの声すら耳に届いていないようだった。 |