ギルバート達が戻ってきた。
 この城から出かけていった者達には、目立ったケガはないように思える。と言うことは、夜盗に襲われた村が酷い状況だったのではないか。
 そう考えながらも、レイは真っ直ぐにギルバートの元へ駆け寄っていく。
「お帰りなさい、ギル」
 微笑みと共にこう声をかけた。
「ただいま。出迎えてくれて嬉しいよ」
 ギルバートは身軽に馬から下りるとレイを抱きしめてくれる。
「しかし、遅いから眠っていてくれてよかったのに」
 苦笑と共にこう続けられた。
「でも、ギルが帰ってきたのですし……」
 ラウの時も、こうして起きて待っていたのだ。だから、とレイは彼を見上げた。
「ご迷惑でしたか?」
 そのまま、おずおずと問いかける。
「そんなことはないよ。ただ、きちんと夜眠らないと、身長が伸びないからね」
 もっとも、ラウは背が高かった。だから、きっとレイも大きくなるだろうね。そう付け加えながらギルバートは彼の体を抱き上げる。
「そうしたら、こうして抱き上げることも難しくなるか」
 それはそれで寂しいかもしれない。そう言って彼は微笑む。
「……ギル……」
 まさか、そんなことを言われるとは思わなかった。そう思いながら、レイは彼の顔をのぞき込む。
「その時には、私が君に支えてもらえるのかな?」
 こう言って、彼は笑みを深めた。
「……そうできれば、いいです……」
 でも、出来るだろうか……とレイは心の中で呟く。
「大丈夫だよ、レイなら」
 しかし、ギルバートがこう言ってくれるなら出来るような気がしてくる。我ながら現金だと思う。
 そんなことを考えながら周囲を見回した。
「ギル……」
 そうすれば、トダカの傍にいる自分と同年代の少年の姿が確認できる。
「彼は?」
 思わず、レイはこう問いかける。
「……彼等は、あの地を守っていたアスカの子供達だよ」
 母親が自分のはとこなのだ、とギルバートは続けた。と言うことは、自分と遠縁だ、と言うことになるのか。レイはそう判断をする。
「だから、ここで引き取ろうと思ってね」
 確か、兄の方がレイと同じ年だったのではないだろうか。ギルバートはそう告げる。
「いいライバルになるのかな?」
 自分とラウのように、と彼は続けた。
「共に学び、競い合える相手がいれば、どのようなことでも楽しめるものだよ」
 だから、仲良くしてやってくれるかな? とギルバートが問いかけてくる。
「もちろんです」
 仲良くできるかはわからない。だが、せめて仲違いをしないように努力はする。レイは心の中でそう呟く。 「いいこだね、レイ」
 そんなレイに、一つ、頼んでいいかな? とギルバートが問いかけてきた。
「何でしょうか」
「タリアの所に行ってね。部屋を用意してくれるように頼んでくれるかな?」
 女の子がいるのだ。この言葉に、レイは反射的に視線を彼等に向けた。少年の方は確認できたが、女の子の存在には気付かなかったのだ。
「わかりました」
 両親を亡くしたばかりの女の子には、きっと、傍にいて優しい声をかけてくれる存在が必要なのだろう。だから、とレイは判断をする。
「直ぐに、行ってきます」
 それに、自分がそうすればギルバート達をすこしでも早く休ませることが出来るだろう。
「だから、下ろしてくれませんか?」
 抱きかかえられたままでは流石に移動することも出来ない。
「そうだね」
 しかし、こういうもののギルバートは直ぐには解放してくれない。
「ギル?」
 いったいどうしたらいいのか。レイは少し困ったように首をかしげた。

 

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