政治的な面で、タリアがギルバートの補佐をしていることは知っていた。 しかし、とレイは思う。目の前の彼女の姿は予想外だった。 「タリア様?」 男装に身を包んでいる彼女の手には、練習用とはいえ確かに剣が握られている。 「ギルバートに頼まれたの。自分たちがいない間でもレイにはきちんと勉強をさせて欲しいって」 これでも、結婚する前は騎士の地位にいたから。そう付け加えると彼女は微笑む。 「多少なまっているかもしれないけど……そのあたりは見ないふりをしてちょうだい」 それは謙遜ではないか。 少なくとも、今のタリアには一分の隙もない。 「……ミーアが『お母様は強い』と自慢するわけだ……」 ぼそっとレイは呟いてしまう。 「あら。あの子はそんな風に言っていたの?」 ミーアの前では出来るだけそんな姿を見せないようにしていたのに、とタリアは苦笑を浮かべる。 「でも、王宮は狭いから、ばれていたとしてもおかしくはないわね」 なら、これからは遠慮しなくていいのだろうか。そう言いながら笑みを深める。 「そう言うことだから、厳しくさせて貰うわ」 遠慮はしないわよ、とタリアは続けた。 「はい」 それに関しては文句はない。 ただ、とレイは心の中で呟く。 との約束を守れなくなるのは困るかもしれない。 「動けなくならないようにして上げるわ」 それは手加減をしてくれると言うことなのだろうか。それとも、とレイは悩む。 「だって、他にもしなければならないことがあるでしょう?」 くすくすと笑いながら口にされる言葉は何なのか。 何か、始まる前に着かれてしまったような気がする。 「……そうですね」 そのせいかどうかはわからない。だが、こう言い返すしかできなかった。 「酷いね」 周囲を見回しながらギルバートはこう呟く。 知らせが来て、直ぐに出発をしたつもりだった。しかし、その間にもさらに大勢の命が失われてしまったらしい。 「生存者は?」 「今、確認をしております」 そう言ったのは、最近、ギルバートの親衛隊に選ばれたハイネだ。 「……誰か一人でも、生き残っていてくれればいいが……」 こう言いながら、ギルバートは眉根を寄せる。 「盗賊の行方は?」 そのまま、別の問いかけを口にした。 「そちらはつかめています」 現在、別の隊がそちらに向かっている。ハイネはさらに言葉を返してきた。 「直ぐにその身柄を確保できるのではないかと」 その時だ。周囲の者達がざわめく。 「陛下!」 それに負けじと戸高の声が周囲に響いた。 「アスカの子供達は無事です!」 他にも、老人や妊婦、そして子供達も……と彼は続ける。 「そうか」 よかった、とギルバートは頷いて見せた。 「無事な者達には十分な食事と温かい場所を提供するように。トダカ達はそのまま彼等を守れ」 その他の者達は、先行している者達の後を追うように。ギルバートはそう言う。 「ただし、出来る限り殺すな。法の下できちんとその罪を認識させるのだ」 そして、同じようなことをしようと考える者達が二度と現れないようにしなければいけない、そうも告げる。 彼の言葉に誰もが頷いて見せた。そして、足早に己のなす事をするために移動していく。 「ともかく……子供達が無事でよかった」 アスカの子供達は王宮に引き取ることになるだろう。その他の者達にも十分、生活が出来るように手配しなければいけない。そして、この村もまた再建しなければ。 それよりも先に、命を落とした者達を丁重に葬らなければいけないだろう。 「ハイネ」 「はい!」 「すまないが、神官殿にこちらに甥でいただくよう、頼んでくれないかな?」 それだけでも、残された者達の気持ちは楽になるのではないか。そう思ってギルバートは彼に命じた。 |