ガルシアとその手の者はカナードの姿を見た瞬間観念したのだろうか。あっさりと投降してきた。だからといって、その罪を許すつもりはないが。
 問題だったのは《一族》と呼ばれる者達の抵抗だった。
「死にものぐるいだな」
 その光景に、カナードはこう呟く。
「今、そうするくらいなら……最初から別の方法を考えればよかったんだ……」
 他人の陰に隠れずに、最初から表舞台で動けばいいのに。
 そうすれば、あのバカのようなものの力を借りずにすんだのではないか。
 可能性は低いが、王家との縁談も持ち込まれていた鴨居しれない。もっとも、自分は絶対にごめんだが、とカナードは心の中で呟く。
「しかし、このままでは双方とも消耗戦になるな……」
 だが、どう考えても連中に勝ち目はない、と思う。もっとも、卑怯な方法を使うのであれば話は別だろうが。
「プレア」
 そう考えながら、すぐ側にいる少年の名を口にする。
「何でしょうか」
 即座に彼が言葉を返してきた。
「劾に言付けを。火に気を付けろ、とな」
 この言葉だけで彼には意味がわかったようだ。
「わかりました」
 この言葉とともに彼は即座に近くの騎士へと駆け寄っていく。おそらく、伝言を頼むつもりなのだろう。
「……劾もわかっているとは思うが……」
 だが、彼は生粋の騎士だ。
 そして、このように敵味方が入り交じっている状況で火を放つと言うことは、普通あり得ない。
 そうすることで、味方までも巻き込む可能性が高いからだ。
「……だが、追いつめられれば何をするかわからない、からな」
 親玉を逃がすために部下を殺すぐらい何とも思っていない人種がいることも知っている。
 まして、あの様子を見れば、どうやら金か何かで雇われたものや何かといった、一種の烏合の衆のようにも見えるのだ。
 しかし、とカナードは思う。
 それならば、どうしてまだ逃げ出さないのか。
「……操られているわけではないだろうが……」
 だが、と心の中で呟く。あの男はそうしていたはず。
 誰かが調べ上げられることであれば、他の者だって同様ではないか。
 あの《一族》とやらの中に、それが出来た者がいたとしてもおかしくはない。
「あるいは……」
 あの男にその情報を教えたのはあの連中なのかもしれない、と心の中で付け加える。だとするならば、余計に許せない。
 全ての原因を自分たちで作っておいて、それを逆恨みしているようなものではないか。
 カナードがそう心の中で呟いたときだ。
「カナード様!」
 焦りの色を浮かべながらプレアが戻ってくる。
「どうした?」
 何かあったのだろうが、と推測しながらもこう問いかけた。
「別働隊が森の方へ向かっていると……どうしますか?」
 カナードが動くのであれば騎士達を集めるが。彼はそうも付け加える。
「行くに決まっているだろう!」
 劾達は動けない。そうならば、自分が動くしかないのではないか。カナードは言外にそう告げた。
「わかりました」
 その言葉にプレアは頷く。
 即座にきびすを返す彼の後を、カナードも即座に追いかけた。

 しかし、だ。
 目の前のこの光景をどう判断すればいいのだろうか。
「……女神のご加護か……それとも、あいつの妄執の結果か……」
 どちらだろうな、とカナードは呟く。
「……どちらにしても、馬鹿が手を出した結果か」
 だからといって、見殺しに出来ないような気もする――本音を言えば見殺しにしたとしても、少しも良心は痛まないのだが――とカナードはため息をつく。
「火を消してやれ」
 正当な罰を与えてやるためにも生きていてもらわなければいけない。だが、祈りがあればいいだけだから、他のことはどうでもいいが。そう心の中で毒づきながらカナードは命じる。
「この森を自分たちが作った、というわりには、何も出来ぬようだしな」
 結局は、ただの詭弁だったわけだ。
「それを信じたものも愚かかもしれないが……それを盾に人々を煽り、罪なき人々を傷つけたのは許せない」
 そして、二度と同じような者達が出てこないように、ここできっちりと片を付けておかなければいけないのではないか。
 そう考えての指示だ。
「わかっています」
 カナードと共に来ていた騎士達は目の前のバカどもの火を消してやりながらこう言葉を返して来る。
「……あちらも、終わっただろうな……」
 劾が負けるはずがない。そう信じての呟きだ。
「これで、終わるのでしょうか」
 プレアが不安そうにこう問いかける。
「……終わって欲しい、と思っている」
 バカはどこから出てくるのかわからないから。カナードは小さなため息とともにこう呟いた。

 その後、戦闘は収束した。
 だが、気になる報告もある。
「……一族の直系を逃がした、だと?」
「あぁ……もっとも、まだ生まれたばかりだそうだが……」
 だから、すぐにどうこうと言うことはないだろう。しかし、要注意をしなければいけないことも事実、だ。
「……気を緩めていられない。そういうことか」
 カナードは小さな声で呟く。
「不本意だがな」
 劾も頷いてみせる。
 今は出てこないだろう。だが、いずれなにがしかの形で動くに決まっている。
「……キラのことだけではなく、そちらも、か」
 重い課題を残してしまうな。カナードは不満そうに言葉を口にした。


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