もちろん、普通であればそのようなことをしようとは考えもしない。
 しかし、自分にとって優先すべきなのは、キラの安全を守ることだ。彼女をあの場から解放してやれないのであれば、それが可能になるときまであそこを守らなければいけない。
「それが……俺の――王家の義務なんだ」
 彼女が王族の義務として世界を守ったのであれば……その彼女を守るのが生き残っている自分たちの義務だろう。
 アスランもカガリも、そしてラクスもそう思っていたに決まっている。
 ただ、彼等にしても自分のこの感情までは予測していなかったのではないか。
 いや、予測していたのかもしれない。
「……あの方方は、自分の血筋が持つであろう感情を、よくご存じだったようだな……」
 彼女に惹かれずにはいられない。そんな感情を。
 それとも、と心の中で呟く。
 この感情すらも、彼等の血の賜物なのか。
「恋いこがれても、決して手にすることは出来ない……そんな想いもあると知ってはいたがな」
 実際に経験すると辛い。
 小さなため息とともにこう呟いたときだ。
「カナード様」
 プレアの声が耳に届く。
「ここだ。準備は出来ている」
 声をあげれば、彼はすぐに顔を出した。しかし、その姿を見た瞬間、カナードは思わず眉をひそめてしまった。
「……プレア……」
「反対されても行きますからね!」
 風花に約束をしたし、何よりもカナードから目を離したくはない。そう彼は口にする。
「俺が何をすると?」
 そこまで信用されていないのか。そう考えて、カナードはこう問いかけた。
「……じゃなくて、心配しているのは追いつめられた人間が何をするか、のほうです」
 あの森ができた経緯を考えれば、他の者達も同じようなことをしないとは限らない。もっとも、威力的には雲泥の差だろうが、とプレアは言い返してくる。
「だからといって、俺はお前達を盾にして自分だけ生き残るつもりはないからな」
 これだけは言っておかなければいけない。そう思ってカナードはこう言い切った。
「わかっています。いざとなったら……森に逃げてください」
 カナードであれば、あそこに入れるだろう。
「あなたがいなければ、僕たちは身軽に動けますから」
 そこまで言うか。そういいたくなる。
「……わかった」
 だが、ここでだだをこねてもしかたがない。何よりも、自分が血筋をつなげていかなければいけない、ということも自覚しているのだ。
「では、行くか」
 だから、さっさと終わらせてしまおう。
 そうすれば、みなに余裕が出来るはずだ。
「さっさと終わらせて、後は自分のやりたいことに時間を割けるようにするか」
 義務を果たした上で……とカナードは呟く。
「そうですね。そういえば、ご存じですか?」
 不意にプレアが問いかけてきた。
「何だ?」
「最近、風花の手伝いに、周囲の村の農作業に出られないような小さな子供達が集まってくるようになったそうですよ」
 番所に詰めている騎士達が、腰に付けてやっている紐が足りなくなった……と言っていた。それだけではなく、番所にも時々、村人からの差し入れが入ってくるのだ、とも彼は続ける。
「そうか……」
 少なくとも、その人々にはあの森は恐怖の対象ではないということか。
 あるいは、子供達が助けられたからかもしれない。
 どちらにしても自分たちにとっては悪いことにはならないだろう。そう判断をする。
「……でも、ほどほどにさせておけ」
 キラが望まないだろうから。そうも付け加える。
「……わかっています……」
 それは風花も、とプレアは頷く。
「だからこそ、みんな、急いでいるんだと思います」
「……そうか」
 おそらく、近いうちに風花をはじめとする子供達もあの森に入れなくなる日が来る。その前に何とかしなければいけない。そう思っているのか。
「すこしでも、キラの心の慰めになってくれればいいが……」
 あの子達の気持ちが。そう思わざるを得ない。
「だからこそ、その気持ちを踏みにじろうとするものは許しておけないんだ」
 その言葉とともにカナードは歩き出す。
 即座にプレアも後を付いてきた。


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