「……一族?」 何だ、それは……とカナードは聞き返す。 「世界の歴史を作ってきた、と自負している連中だと、よ」 自分も詳しいことはわからないが、と言葉を返してきたのはロウだ。 「滅んだ、と聞いていたんだがな」 劾が微かに眉を寄せながらロウを見つめた。 「俺も、だよ」 ただ、生き残りがいたらしい……とロウは告げる。 「そいつがガルシアの後ろにいるらしい」 ひょっとしたら、あの男を隠れ蓑にして、一族の再興を試みているのかもしれない、と彼は続けた。 「そのための、自分たちの領土、か」 確かに、自分たちの所領があり、そこに領主という名前の傀儡を置いておけば周囲からは気付かれにくくなる。 だが、現在、この国に空いている領土はない。 いや。たとえ空いていたとしても、そのような者達にくれてやる領地などあるわけがない、とカナードは心の中で呟く。 「厄介なのは、な。そいつらは、自分たちこそがこの世界を正しい方向へと導いている。そう考えていることだ」 女神の奇跡すら、自分たちが起こしたことだ。 そう言いきっているらしい、と聞いた瞬間、カナードの中に怒りがわき上がってくる。 「……ならば、どうして未だに、キラがあそこに捕らわれているんだ……」 自分たちのしたことだというならば、即座にキラを解放しろ……とカナードはうなるように口にする。 「落ち着け、カナード」 劾がそう言いながら彼の肩に手を置く。 「世迷い言に耳を貸すな」 冷静な口調でそう言われる。しかし、理性ではわかっていても出来ることと出来ないことがあるのだ。 「ともかく、もう少し調べてみる。リードも手を貸してくれると言っているし、神殿も協力してくれているからさ。決定的な証拠、って奴を掴んでくるぜ」 そうすれば、そいつらを駆逐することも可能だろう。ある意味、証人にあるまじきセリフをロウは口にした。 「頼む」 自分にはそういうしかできない。 王である以上、軽々しく動けないのだ。 だから、今キラに会いたい。そうすれば、少しは心が楽になるのではないか。 しかし、それを口に出してはいけない……と言うことも、彼にはわかっていた。 そっと目の前に、優しい香りのお茶が差し出される。 「メリオル?」 「お疲れのようですので……昔、キラ様がよく作っておられたお茶のレシピをいただいてきましたから」 疲労によく効くのだとか、と彼女は口にした。 「そうか」 その言葉がどこまで本当なのか、カナードにはわからない。だが、カップから立ち上ってくるその香りは、確かにほっと出来るものだ。 そんなことを考えながら、それを口に含む。 次の瞬間、口の中に爽やかな香りが広がった。 「うまいな」 素直な感想を口にする。そうすれば、メリオルが静かな笑みを口元に刻んだ。 「それは良かったです」 そして、そのままカナードの側を離れようとする。 「お前達も、あまり無理はするな」 その横顔に向かってカナードは言葉をかけた。 「すこしでも早く、と思ってくれるのはありがたい。だが、そのせいで誰かが倒れたりするのは、本末転倒だろう?」 だから、きちんと休息を取れ。そうも命じる。 「ありがとうございます」 一瞬、メリオルは目を丸くした。だが、すぐ微笑むとこう言い返してくる。 「ですが、私には私なりの理由もございます」 だから、すこしでも早く、キラをあの地から解放して差し上げたいのだ。彼女は静かな口調でこう告げた。 「……メリオル?」 それはどうしてなのか。言外に問いかける。 「……ご内密にして頂けますか?」 出来るだけ隠しておきたいことなのだ。言外にそう付け加えられて、カナードは静かに頷く。 「マルキオ様のお加減がよろしくないそうなのです。ですから……せめて、あの方の意識がはっきりとしている間に、キラ様と会わせて差し上げたいと」 そう頼まれたのだ。メリオルはそう口にする。 「……だから、神殿も俺たちに協力をしてくれているのか?」 マルキオのために、とカナードは呟く。 「それもあるのかもしれませんが……キラ様に対する気持ちもあるのではないかと思いますわ」 キラ一人が背負うべきことでもないだろうし、と現在、神殿の中核をなしている者達は考えているようだ。メリオルはそう口にする。 「そうか」 自分以外にもキラのことを気にかけている者がいたのか。考えてみれば、十分にあり得る話だ、とカナードは思う。 だからこそ、彼等が生きているうちに彼女を解放できればいい。 そうも考えていた。 |