「……おそらく、一つの術の名前でじゃ、なさそうだわ」 プロフェッサーが実に楽しげな表情を浮かべながら言葉を口にする。 「さすがは、ラクス様……と言った所ね。おそらくいくつかの術を組み合わせたものが《運命》と呼ばれるものだと思うわ」 それを校正しているのではないかという術はいくつか見つけられた。しかし、まだ、全体像は見えてこないのだ。 彼女はそうも付け加える。 「……流石だな」 だが、それがわかったのは彼女だからではないのか。カナードはそう考えてこう呟く。 「ほめてくれるのは嬉しいけど……やっぱり、自分が知らないことがあるのは、面白くなくてね」 それに、とプロフェッサーはため息をつく。 「見つけたのは、私じゃないんだよね」 微苦笑と共に彼女は続けた。 「あの 王宮の人間でなければ、即座に引き抜きたい所なんだけど……とそう言われて、カナードは苦笑を浮かべる。 「そうされては困るな」 優秀な人材は手放したくないから、と告げた。 「わかっているわよ」 だから、引き抜かないわ……と彼女は笑う。 「そうしようとして、これらの本と引き離されるのはいやだしね」 だから、せいぜい、ここにいる間に教育させて貰うわ……とそう付け加える。 「賢者という人種は、誰でも変わらないらしいな」 自分の知識を増やすだけではなく、他人の知識も増やさせるのが楽しいらしい。そうはき出す。 「でも、それは役に立っているでしょう?」 少なくとも、ラクスが与えてくれた知識は……と彼女は付け加える。 「否定はしない」 カナードは素直にそう言った。 「そう言うこと。それと、これはお願いなんだけど」 ちょっと人手が足りなくなってきたので、と彼女はさりげなく付け加える。 「うちのリーアムも参加させてくれない? 力仕事を担当するのが欲しいのよ」 その口の堅さは保証するから、と言われてカナードは少し悩む。 「できれば、あまりあそこに出入りをする人間は増やしたくないのだが」 だが、男手があった方がいいという意見も頷ける。 「きちんと監督をさせてもらうから」 何なら、出て行くときに身体検査をしてくれてもいいわ……とプロフェッサーはさらに言葉を重ねてきた。こうなってくるとかなり切実な状況だと言わざるを得ないという言うことだろうか。 「わかった」 きちんと責任をとってくれるというのであれば構わない。カナードはそう告げる。 「助かるわ」 プロフェッサーは言葉とともに微笑んでみせた。 「だから、出来るだけ早く頼む」 「それもわかっているわ」 任せておいて。そういう彼女にカナードは頷いてみせた。 予想以上にあっさりとガルシア背任の証拠はつかめたらしい。 しかし、それが逆に引っかかるような気がするのは自分だけだろうか。 そんなことを考えながら劾を見つめる。 「……あいつも、ただの道化か?」 誰かの掌の上で遊ばれている可能性はないのか、と言外に問いかけてみた。 「俺も、その可能性は考えている」 でなければ、あの小心者があのような行動をとるはずがない。劾はそう言って頷いてみせた。 「今、それの裏付けをとっているが……今しばらくかかりそうだぞ」 影も形も出てきていないからな、と彼は告げる。 「リードがかかりきりになってくれているが……それでも、辛うじてその後ろ髪を見つけられた程度らしい」 本人はかなり矜持を傷つけられていたな、と言われてカナードは苦笑を浮かべた。 「珍しく本気になっているわけだ、あいつが」 「そう言うことだ。他に、ロウ達も手を貸してくれている」 むしろ、そちらの方が手がかりを掴むのは早いかもしれない。劾は冷静な口調でこう告げる。 「いいのか? お前がそれを言って」 「構わないだろう」 劾はあっさりとそう口にした。 「重要なのは《誰》がその情報を手に入れたかではない」 違うのか、と言われてカナードは苦笑を返す。 「まぁ、あいつには、後で酒の一樽でも押しつければいいか」 それで機嫌がよくなるだろう。そう告げれば、劾もまた笑ってみせた。 |