キラが告げた場所に、間違いなく隠し部屋へ入る仕掛けがあった。 「……ざっと見ただけでも、貴重な書物が揃っているな……」 中には、あの混乱期に失われてしまったと言われているものまである。きっと、暴徒とかした者達からそれらを守るために、ラクスがここに封印したのだろう。 「キラが教えてくれなければ、これらは永遠に隠されたまま、だったんだろうな」 カナードは手近な本を取り上げながら、こう呟く。 「それは、否定できないな」 劾にしても、これらの本がどれだけの価値を持つものかわからないはずがない。彼もラクスに教育を受けた人間だから、だ。 「だが、どうしておばあさまは俺たちにこれの存在を教えてくださらなかったのか?」 劾が悔しげにこう呟いている。 「……さぁ、な」 それは、自分にもわからない。 「おばあさまには、おばあさまなりのお考えがあったんだろう」 おそらく、自分の血をひく誰かに《キラ》と出逢って欲しいと思っていたのではないか。そうすれば、必ず彼女を救おうとするだろう。そう考えていたのではないか。 「キラを救おうと思わなければ、これらは隠されたままだった……と言うことかもしれないな」 口に出しては言えない想い。 だが、叶えたい想いであるならば、多少回りくどくても、確実な方法を選ぶのだろう。そんなことも考える。 「……試されていた、と言うことか」 ため息とともに劾は呟く。 「本当にあの方は」 「おばあさま、だからだろう」 彼女は、自分から動こうとしなければ表面上のことしか教えてくれなかった。その後、もっと知りたいと想えば自分自身で動かなければ手を貸してくれなかっただろう、と付け加える。 その言葉に、劾も何かを思い出したのか。 「そう、だったな」 彼にしても――いや、彼の方がそれに関しては自分よりも多く体験しているはずだ。 「と言うことは……やはり、これらの中に彼女を解放するための手がかりがある、と言うことか」 取りあえず目を通すにしても多すぎる。 だからといって、迂闊な相手に見せるわけにはいかない。 「……取りあえず、俺が読めない分はプレアに頑張ってもらうか」 プロフェッサーが戻ってきたら、彼女にも協力して貰おう。そうも付け加える。 「後、二三人、信頼できる相手がいればいいんだがな」 そうすれば、少しは負担が分散できるのではないか。 「お前とイライジャはあてにしてはいけないのはわかっているし……風花はもう少し成長するまで、これらには触れさせたくない」 そう付け加えれば、劾も「そうだな」と同意をしてくれた。 「だが、やらなければいけないことだ」 祖父母達だけではなく、自分自身の気持ちにけりを付けるためにも。カナードはこう呟く。 「……無理だけはするな……」 しかたがないというような表情で、劾がこう言ってきた。 「反対をしないのか?」 今までとは微妙に異なるその反応に、カナードは聞き返す。 「しても無駄だろう?」 どれだけ反対をしても、カナードは自分の意志を変えるつもりはなさそうだし……と劾はまたため息をつく。 「当たり前だ」 きっと、ラクスに背中を押されなくてもそうしていただろう。これは、あるいは自分の血の中にこめられている彼女たちの願いのせいなのかもしれない。 「だから、だ。そう言うときは、むしろ、わきで監視しながら作業をさせた方がいい」 そうすれば、自分がストップさせられるし……と彼は続ける。 「……勝手にすればいい」 これでも、彼がかなり譲歩をしてくれているというのは理解できた。しかし、自分はそうしなければいけない子供ではないのだ、と言う思いもある。 しかし、ここで反発をすれば完全に彼は反対に回るだろう。 最悪、仕事を増やされるのではないか。 それとも、寝室に女を送り込まれるか。 どちらにしても、厄介なことは言うまでもない。 「ともかく、これは王宮に運ぶぞ。王族用の図書室に運んでおけば、迂闊な人間が、目にするようなことはあるまい」 いちいちここに来る手間を考えれば、そちらの方が時間を有効に使えるだろう。 それに、自分の目の前で本を調べられるし……とカナードは口にする。 「手配をしておこう」 劾にしても、こちらに戻ってくることは少ないのだ。だからというわけではないだろうが、即座に同意をしてくれる。 「頼む」 ここは自分のものではなく彼が相続した館だからな、と心の中で呟きながらも、カナードは頷いてみせた。 「明日中には移動させる。取りあえずは……執務室に運ぶからな」 そこから後はお前達で整理をしろ。劾はさらにそう付け加える。 「わかっている」 彼にそんな怖いことはさせられない。カナードはそう心の中で呟いていた。 |