自分たちが聞いたキラの言葉をそのまま伝える。それには劾も反論が出来ないのか。静かに何かを考え込んでいる。 「……森を完全に閉じたら、どうなるんだ?」 その隣にいたロウが代わりに問いかけてきた。 「……あの妄執はいつまでも生き続ける。それどころか、閉じ込められることによって限界までふくらみかねないそうだ」 キラと女神の力が尽きた瞬間、それらがまた世界に広まる。そうなれば、もう誰に求められないだろう。カナードはそう言い返す。 「なるほど……発酵したままのものを箱に詰めておくのと同じ理屈か」 経験があるのだろうか。ロウは具体的な例を口にすると頷いてみせた。 「それでは、そうしてくれと言えないな」 そちらの方が最悪の被害を及ぼしそうだ。劾がため息とともにそう呟く。 「……その可能性がなければ、キラを切り捨てるつもりだったのか?」 反射的にこう問いかけてしまう。 「カナード……」 諫めるように口にされた言葉が、その答えなのではないか。 「……キラはオーブの直系だぞ……俺が気にかけて、何が悪い」 少なくとも、自分は義務を果たす以上のことはしているつもりだ。それ以外の時間ぐらい、彼女のことを考えてもいいだろう……とカナードは口にする。 「それが、おばあさま達全員の希望だったのだぞ」 そう。 これがラクスとミゲルだけの希望だったとすれば、自分も自嘲した方がいいのではないかと考えたのかもしれない。それが不可能だとわかっていても、だ。 しかし、アスランとカガリの二人もキラをあそこから解放したいと思っていたのだ。そして、そのために動いていた。しかし、それを果たすことが出来ずに黄泉路をたどった。 だから、せめて彼女を解放するための方法を探すことが、彼等への供養になるのではないか。 カナードはそう言い返す。 「……もし、俺が生きているうちに果たせなければ、それは俺の子孫に引き継がせることになるだろうな」 そのために、婚姻をすることは厭わない。だが、今はまだ、その時期ではないのではないか。そうも付け加える。 「カナード様?」 「どこに獅子身中の虫とも言える存在がいるのかわからない。何よりも、俺は、お飾りの后なら入らないぞ?」 第一、劾もまだ独り身なのに……と付け加えたのはイヤミだ。 「……言われてみれば、そうだよね。劾様、もてるのに」 風花のこの言葉は自分に対するフォローなのか。取りあえず、彼女もキラのことが気に入っているからだろう。 「それとこれとは……」 「話が違わないよな?」 笑いながら聞き返してやる。そうすれば、劾は苦虫を噛み潰したような表情で黙り込んだ。 「ともかく、俺は義務はきちんと果たす。その上で、祖父母の希望を叶えてやりたい。それは間違っている事なのか?」 さらにこう問いかける。 「……わかった。お前が無理をしない、と言う条件で認めてやろう」 ただし、その時には自分も付き添うからな! と言うのが彼なりの譲歩なのだろう。カナードはそう判断をして頷いてみせた。 取りあえず、森に花を植えるのはしばらく風花に任せるしかないだろう。 「いいか? 森にはいるときは必ず、腰にロープを結んでからいけ」 できれば、最初に二本付けていって、片方を道しるべとして森に残しておいて欲しい。そうも付け加える。 「わかりました!」 任せておいて、と風花は頷く。 「取りあえず、今回は俺と樹里も挑戦してみるから」 うまくいけばは入れるかもしれないしな、とロウが笑ってみせる。 「それと、プロフェッサーも面白そうだと言っていたから付き合ってくれるとさ。ラクス様ほどではないが、彼女も賢者の称号を持つ人間だからな」 あるいは、何かヒントを見つけてくれるかもしれない。そう言ってくれる彼に、カナードは頷いてみせる。 「そうあってくれれば嬉しい」 彼等が森に行っている間に、自分はクライン邸を調べてみよう。そうすれば、より多くの資料を手に入れることが出来る。自分が手を放せなくても、プロフェッサーであれば信頼できるし。そうも考えた。 「任せておけって。そういうわけで、風花とロレッタを借りるからな」 ロウはこう言うと歩き出す。その後をロレッタと風花が付いていく。 「気を付けろよ」 カナードはこう言うと同時にきびすを返した。そうすれば、視線の先に劾の姿が確認できる。 「……何か?」 文句があるのか、と言外に滲ませながら問いかけた。 「……お前が、自分の立場を忘れていないならばいい」 それに、こう言い返してくる。 「ずいぶんと、信用がないんだな、俺は」 ならば、今までも我慢せずにキラの元へ向かっていればよかったのだろうか。そんなことまで考えてしまう。 しかし、それを口にしても水掛け論にしかならないだろう。 「……ともかく、クライン邸に行く。付いてくるなら、勝手にしろ」 この言葉とともに、カナードは歩き出す。その後を、当然のように劾も付いてくる。 邪魔だけはしないで欲しい。カナードはそれだけを考えていた。 |