食事を終えたところで、カナードと風花はキラに追い出されるように森から出た。
「……キラ……」
 その事実が悲しいと思ってはいけないのだろうか。
 できれば、彼女を一人であの場所に残しておきたくないのだ。
「キラ様……一人で、寂しくないのかな?」
 同じようなことを感じていたのか。風花が呟くようにこう口にする。
「わからない」
 自分はキラではないからな、とカナードは吐息と共にはき出す。
「俺だったら、我慢できないかもしれないが……」
 だが、彼女は全てを受け入れている。それこそ、運命だ、と考えているのではないだろうか。
 神官であれば、それは当然のことなのかもしれない。神殿にはいるときに、全てを女神に捧げると誓うのだそうだ。
 しかし、自分はそうは思えない。
「……辛いのは、俺たちの方か……」
 キラがどのような人間か知ってしまったからな、とそうも呟く。
「そうかもしれないです」
 風花も頷いてみせる。
「だから……せめて、お花を届けて上げたいですね」
 小さな声で彼女はこう呟く。
「他にも、な。こうなると、劾が中に入れなかったのは辛いかもしれない」
 結局、自分と風花がその役目をするしかない。しかし、それでは他の者達が反対することは目に見えているのだ。
「……風花……」
「わかってます。母さんも巻き込んで、協力させて頂きます」
 きっと、きちんと話をすれば、ロレッタも二三回は目をつぶってくれるだろう。風花はそう告げる。
「それだけじゃ、足りないがな」
 だが、それだけでもよしと思わなければいけないのだろうか。カナードがそう考えたときだ。
「カナード様! 風花……」
 言葉とともにプレアが駆け寄ってくる。
「よかった……もう、出てこないかと心配していました」
 彼はそのまま、自分たちの前に崩れるように膝を着く。
「そうは言うが……ロレッタの弁当を食べてすぐに出てきたぞ」
「同じ道を通ったんだけど」
 カナードと風花は口々にこう言い返した。
「第一、俺が自分の義務を放棄するような人間だと思うのか?」
 キラの側にいたい、というのはもう否定する気もないほど自分の中に根付いてしまった気持ちだ。しかし、それは彼女をここから解放して、と言う前提の上での考えである。
 もし、彼女を解放できなければ、その存在を手にすることを諦めなければいけない。
 その覚悟もある。
 だが、それは最後まであがいてからのことだ。
「……すみません。でも、不安だったんです」
 大切な人を失うかもしれない。そう考えて……とプレアは呟く。
「わかっている。だが、もう少し俺たちも信じてくれ」
 こう繰り返すしかない。それで信用してもらえないのは、自分の言動に問題があると言うことだろう。そして、それに関しては思い当たる節が山ほどあるのだ。
「取りあえず、色々と話し合わなければならないこともある。劾達はどこにいる?」
 話題を変えようとするかのようにカナードはこういう。
「あちらです。風花が足を踏み入れた場所でみんなは待っていたのですが……」
 だが、いつまで経っても出てこない。だから、何人かが探しに移動を始めたところだった。プレアはそう教えてくれる。
「そうか」
 同じ道を通ったつもりでも、印がなければ別の場所に出てしまうのか。
 それとも、印があっても別の場所に出てしまうのか。
「……それも確認しておかないとな」
 これからも、この森に足を踏み入れる者は必ずいるはずだ。
 だから、少しでも発見を早くするためにも、出口は限定したい。そうすれば、そこに誰かを駐留させておけばいいのだ。
「まぁ、それも話し合ってからだな」
 劾を説得するのにどれだけの時間がかかるだろうか。そちらの方が問題かもしれない。
「あいつに頼まなければいけないこともあるし」
 何とかするしかないだろう。
 キラの言葉が本当であれば――いや、それが嘘であるはずがない、とカナードは考えている――この森に多くの人間が入ることはよくないのだから。
「と言うわけで、行くぞ」
 そうは思うが、プレアはまだ動けそうにない。
 だから、と考えて、カナードは彼に手を伸ばす。そしてそのまま小脇に抱えた。
「カナード様!」
 その事実に、プレアの口から焦ったような声が上がる。
「大人しくしていろ。でないと落とすかもしれん」
 劾が騒ぎ出す前に戻った方が良さそうだからな。この言葉とともにカナードはそのまま歩き出した。


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