目的地へたどり着けば、肉親らしい者達に抱きしめられている子供達の姿があった。 「……これは……」 「つい先ほど、揃って森の中から姿を現した」 それも、自分たちがいる場所を狙ったかのように。そう言ってきた声の主が誰なのか。確認しなくてもわかった。 「劾、来ていたのか?」 こう口にしながらカナードは振り向く。 「一時間ほど前に、な」 視線の先にいた彼はよほど無理をしたのか。髪や服装がくたびれきっていた。それでも、背筋をきちんと伸ばしているのが彼らしい、と言うべきか。 「そうか」 小さく頷くと、カナードは視線を子供達のほうへと向ける。そして、そのまま真っ直ぐに彼等の方へと歩み寄った。 「お前達」 自分にしてはかなり優しく声をかけたつもりだった。しかし、何故か子供だけではなく大人達まで小さく体を震わせている。 それは、自分が《王》だからか。それとも、顔が怖いからなのか。 「よく頑張ったな」 しかし、それに気が付かないふりをしてカナードは言葉を続ける。 「このような事態を招いてすまない。気が付かなかった俺の失態だ」 彼の言葉を耳にして、誰もが一様に驚いたような表情を作った。まさか、そのような言葉が自分の口から出るとは思っていなかったのだろうな。カナードはそう判断をする。 だが、それは別の効果ももたらしたらしい。 「あっ……」 子供の一人が彼の方に歩み寄ってきたのだ。そして、そのまま上着の裾を掴む。 「エル!」 そのようなことは、と子供の母親らしい女性が口にする。あるいは、そのせいで我が子の身に危険が及んではいけないとでも思っているのか。 自分がそんなことをすると考えられていると思えば、少しだけ腹立たしい。 しかし、貴族の中にはそんな者達もいるらしいからしかたがないのか。 「構わない。何か話があるのか?」 こう言いながら、カナードはそっと子供の指を服から放す。代わりに目線をあわせようと膝を着いた。 「あのね。おひめさまがたすけてくれたの」 そんな彼の瞳をのぞき込みながら、子供はそっとこう告げる。 「お姫様?」 きっとそれはキラのことだろう。そう思いながらも聞き返す。そう知れば、子供は小さく頷いてみせた。 「おうさまとおんなじめのいろのおひめさまがね。えるたちをおとうさんとおかあさんがいるところまでつれてきてくれたの」 色々とお話をしてくれたから、怖くなかったよ……と彼女は付け加えた。 「そうか」 よかったな、とカナードは口にする。 「エル!」 「そんな世迷い言を……」 しかし、周囲の大人達はそう思わなかったらしい。慌てたようにこう言ってくる。 「嘘じゃないよ」 「ちゃんと連れてきてくれたもん。だから、僕たちはここにいるんだよ?」 だが、子供達は口々にこう言ってきた。 「……カナード」 子供達と親たちの間に亀裂を作ってはいけない。そう判断をしたのか、劾が呼びかけてくる。 「この森がどうして出来たのか……知っているか?」 不本意だが、と心の中で呟きながらカナードは彼等に問いかけた。 「いえ……」 「我々は、最近、ここに移住してきたもので」 大人達は申し訳なさそうにこう言ってくる。 「この森は禁域だ。まだ、この国がオーブとプラントと言う二つの国だった頃、この世界を壊そうとしたバカがいた。そのバカの妄執から世界を守ろうとしたオーブの姫と女神が、この中にその妄執を閉じ込めている。いずれ、それが浄化されるまで、その姫はここに留まっているんだ」 その姫が子供達を守ってくれたのだろう。カナードは取りあえずこれだけを説明した。 「その姫は、とても慈悲深い方だったそうだ」 だから、子供達をこちら側に返してくれたのだろう。劾もまたこう言ってくれる。 「子供達が嘘を付いているわけではない。オーブという国は、昔から女神のご加護を信じていた。そして、女神もまたそれに応えてくださっている」 子供達は純粋な存在だから、それも関係しているのだろう。彼はそうも付け加えた。 「だろうな。この森に足を踏み入れたものの多くは、二度と戻ってこられないそうだ。子供にしても……二度目はないとも聞いた」 だから、子供達を森に入れない方がいい。言外にそう告げる。 「でないと、怖い悪魔に掴まるからな」 これは子供達に向けての言葉だ。 「……王様……」 それに、エルがそっと問いかけてくる。 「何だ?」 「……お姫様は、一人で寂しくないの?」 この問いかけに、カナードは自分の心の中を見透かされたような気がした。しかし、とっさにその気持ちを押し殺す。 「お姫様は、みんなが平和に暮らしていてくれればいい、と思っているんだよ」 だから、お前がそうなればいい。そう付け加える。 「みんなが平和で幸せになれたら、お姫様はここから解放されるんだ」 だから、いいこでいろ。そう付け加えれば、エルは納得したのか小さく頷いてみせる。 「当座の食料や医薬品など、必要があればまとめて申し出るように」 それに微笑み返すとカナードは立ち上がった。そして、次々と指示を出し始める。 だが、心の中ではキラが今どう思っているのか知りたい、とそう思っていた。 |