運命。 それが何であるのか、いくら探してもわからない。 いや、それらしき記述が多すぎてどれが正しいのかわからない……と言った方が正しいのか。 「……おばあさまが見つけられたのだ。答えは、必ずどこかにあるはず」 いくら賢者とはいえ、無から有を生み出すことは出来ない。 だから、どこかにその答えがあるはず、だ。 そして、彼女が一度見いだしているのであれば、自分にそれが出来ないはずはない。カナードはそう信じていた。 「おばあさまの蔵書は……全部王宮に移したはず……」 だから、必ず手がかりはここにあるはずなんだ、と彼は呟く。 「おじいさま達も知っていたはずなんだ、それを」 だから、彼等はミゲルが国を離れることを認めたのではないか。そんな風にも考える。 「そして、どこかでそれを見つけた」 だからこそ、彼はその後の人生をラクス達の側で過ごしていたのではないか。 自分であれば、見つけられなければ大人しくなんてしていられない。いや、人であれば普通はそうではないのか。 「……諦めてしまった、と言うことは書いていないしな」 ミゲルの日記にはそのような言葉は書いていない。 いつの日かキラがあそこから解き放たれるだろう。それを自分の目で見ることが出来ないのが残念だ。 この一言が書かれていただけである。 もっとも、それはアスランやカガリの日記でも同じ事が言えた。 彼等も、その目でキラが解放される日を見られないことが残念だ。もう一度、彼女を抱きしめたかったのに。 そんなことが書かれてある。しかも、二人揃って、だ。 「……祖父母が四人揃ってこう言っているんだ。俺が、キラのことを気にかけたとしても、おかしくはないのか?」 それとも、とカナードは心の中で呟く。 「まぁ、いい」 この感情は、誰に強制されたものでもない。自分自身の中から生まれたものだ。 だから、とカナードは唇を引き締める。 「絶対に、俺の手でキラをあそこから解放する」 そうすれば、彼女は一人で過ごさなくてすむ。そして、自分たちも豊かな森の恩恵にあずかれるはずだ。 そうなれば、国民だって喜ぶ。 「……もっとも、それが出来るまでは……あそこには誰も立ち入らないようにしないといけないわけだが」 あの時見た、あの妄執に惹かれて森の中にたどり着いた者達の末路を思い出して、カナードは微かに眉を寄せる。あのような者達を増やしてはいけない。 「何よりも、キラが悲しむ」 彼女は全ての者達を救いたいと思っているようだった。 だが、その腕は頼りないくらいに細かった。 そんなキラが助けられるのは、間違いなく子供達だけだろう。 それだけでも十分だ、と思うのは、子供達があれの妄執に縛られていないと思えるからだ。 彼等は、両親に言われたりただの好奇心だけで森の中に足を踏み入れている。それは子供であれば当然のことではないか。自分だって、もっと幼く背負うものものなければ、毎日のようにキラの元を訪れていたかもしれない。 いずれ、あの森にとらえられてしまう日が来るかもしれない、とわかっていても、だ。 しかし、そんなことになればキラが悲しむ。 何よりも、この国が乱れる原因を作ることになりかねない。 「あそこに、あいつと同じ妄執を持った者達が集まれば……女神ですら、それを止めることは不可能になる」 あの男一人の妄執ですら、キラを犠牲にしなければ止めることは出来なかった。そして、今でもそれはまだ息づいている。それを自分自身が確認してきた。カナードはそう考えて眉を寄せる。 「……神殿の、力を借りるべきだろうな……」 彼等が持つ知識。 それを民間に少しずつでも広めていってもらえないだろうか。 もちろん、今までだってそうしてくれている。しかし、その多くは神官になるべき者達だけに伝えられていると言うことも事実だ。 「少しでも多くのものが正しい知識を持つことができれば、避けられる飢饉もあると思うが……」 この考えは間違っているのか。 それを知るためにも、またマルキオの元を訪れなければいけないだろう。 「……マルキオ様の体調次第、だろうがな」 それと、自分の方の都合か。ため息をつきながら、カナードは視線を机の上へと戻す。 いったい、どこからこれだけの書類が出てきたのか。 そう言いたくなるほどの山が目の前にはある。 「……まさか、故意に仕事を回しているのか?」 自分が逃げ出さないように、と思わず眉を寄せてしまう。 もちろん、そんなことはないと言うこともわかっている。普段は劾が処理している内容も含まれているのだ。 「いい加減、あいつに帰ってきて貰わないと、調べものも進まないな」 そのうち、本気で全てを放り出しそうだ。こんな呟きまでも唇からこぼれ落ちる。 「プレアに、お茶でも淹れてもらおうか」 気分転換をしなければ、本気でよからぬ考えを実行に移しそうだ。そんなことを呟きながらカナードは腰を上げる。 そのまま、プレアを探そうとドアの方へと向かった。 |