しかし、とキラはため息をつく。 「……状況としては、いいのかな?」 少なくとも、アークエンジェルに関しては、だ……と思いながら、キラは物資の運び込みを手伝ってくれているレジスタンス達を見つめている。 彼等に、コーディネイターに対する偏見があるのは十分に伝わってきていた。彼等の居場所を奪ったのが《ザフト》である以上、それは当然の感情だろう。しかし、それと自分の存在を別物だと割り切ってくれているのだ。 「利害関係が一致しているから、だろうけどね、それも」 自分たちが《ザフト》と敵対しているから。だから、彼等は自分も含めたアークエンジェルのクルーを受け入れてくれているのだろう。 「……でも、これで本当によかったのかな……」 自分たちの存在が、この地のパワーバランスを崩してしまったことは否定できない。しかし、それがレジスタンス達にとってよかったのかどうか、わからないのだ。 「何、黄昏れているんだ?」 それ以上にわからないのは彼女の存在だ、とキラは思う。 「……カガリ……」 最初にあったときは、彼女はオーブから来た、といっていたはず。それなのに、今の彼女はオーブ本土を遠く離れたここにいる。しかも、レジスタンスの一員として、だ。 それはどうしてなのだろう、と思う。 キラの困惑を気にすることはなく、彼女は隣に腰を下ろしてくる。 「私としては、お前がアレに乗っていたことの方が驚きだったからな」 そして、こう口にした。 「いろいろ……あったから……」 もっとも、最初から自分がMSに乗って戦場に出ることは決まっていたのだ。しかし、それはもっと後だったはず。 だが、ヘリオポリスの一件で、自分たちの計画に修正をしなければいけなくなった。それも事実。 それでも、自分は一人ではない。側にフレイがいてくれる。だから、とキラは自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。 「そうか……」 キラの言葉をどう受け止めたのか。カガリはこう呟く。 「あいつらとの仲がおかしくなったのも、そのせいか?」 しかし、いきなりこれはないだろう。そういいたくなるような質問を彼女は口にした。 「それもあるのかな……」 一番の原因は、フレイのことだろう。 それでも、自分には彼女のぬくもりが必要だった。そして、彼女の言葉も。 フレイにしても、そんな自分の弱さに気付いてくれている。だからこそ、自分が悪者になってでも側にいてくれるのだ。 「……僕が弱いから……」 フレイがそういう決断をしなければいけなかったのだ、とキラは呟く。 「お前は、バカだな」 言葉とは裏腹に、カガリの口調はやさしい。 「いや……バカだったのは私たちの方か」 「……カガリ?」 「ともかく、お前はもう少し周囲の奴に目を向けろ。あいつが悪いわけじゃないがな」 それでも、今のままではダメだということがお前もわかっているだろう……と彼女は続けた。 しかし、キラはそれに同意の言葉を返せない。 自分たちは彼等に隠し事をしている。 それがよくわかっているから、だ。 「そうだね」 だからといって、それを告げるわけにはいかない。そう思って、キラは曖昧な言葉だけを返した。 「フレイ」 そのころ、フレイはミリアリアに呼び止められていた。 「何?」 キラに食事を持って行かなきゃないんだけど……と付け加えながら、フレイは彼女へと視線を向ける。 ミリアリアのことは嫌いではない。 むしろ、ヘリオポリスのメンバーの中では一番好きな相手――もちろん、キラは別格だ――と言えるのではないだろうか。 だが……いや、それだからこそ、ここしばらく、自分たちの関係はぎくしゃくしていた。 「……キラ、元気?」 それが関係しているのだろうか。ミリアリアは一瞬ためらった後でこう問いかけて来る。 「どの状態を『元気』といえばいいのわからないけど……取りあえず、無理矢理にでも食事は取らせているし、ベッドで眠らせているわ」 食は細いが、それでもいろいろな意味で行動に支障はないはずだ、とフレイは言い返す。 「もっとも……心の方まではわからないけど」 眠っていても魘されるから……とさりげなく付け加える。 「そういうときは……そっと声をかけてやれば落ち着くんだけど」 でも、戦闘があればまた同じ事の繰り返しだけどね、とため息をついた。 「……キラ、そんなに、追いつめられているの?」 知らなかった、とミリアリアは口にする。 「あたし達と違って、キラは直接戦っているの。見ているのと違うのよ」 そうなれば、どれだけのストレスがキラの心を追いつめているのか、わかりそうなものだろう、とフレイは口にした。 「だから、せめてキラの世話をしたいの、あたしが。みんなにはできないから」 みんなには仕事があるけど、自分には違う。だからこそ、できるのだが……とフレイは自嘲混じりの笑みを作る。 「……それはわかったけど、サイは?」 サイのことはいいのか、とミリアリアはためらいながら問いかけてきた。ためらうくらいなら、放っておいて欲しいとそう思う。 「嫌いじゃないわよ。でも、アーガイルの家の人たちがどう思っているのか、わからないもの」 自分は彼等にとって、既に利用価値を失っている。そう考えれば、サイから離れた方がいいだろう。フレイは取りあえずこう口にする。 「それに、今、あたしを一番必要としてくれているのは、キラだわ」 だから、キラの側にいるのだ。こう言い切ると、フレイはさっさと歩き出す。 「フレイ!」 「ご飯、冷めちゃうでしょ」 これ以上話をする気はない、と態度で告げる。それで彼女がどう判断をするか。これは、今後の態度から判断するしかないだろう。できれば……と付け加えかけて、フレイはやめた。 |