キラの叫び声が耳に残っている。 「……俺は、動けなかった……」 ストライクダガーがフリーダムに近づいていることにも気付いていたし、ミゲルと同じような行動を取れば守れることもわかっていてもだ。いや、ひょっとしたらミゲルのM−1よりもジャスティスの被害は軽かったかもしれない。 それなのに、どうして動けなかったのか。 「俺は……」 キラを大切だと思う気持ちに嘘はない。 だが、それなのに動けなかったのだ。それは、きっとあの時のように自分の命を無意識に惜しんでしまったからなのだろう。 しかし、ミゲルは自分の命を省みずにキラを守ろうとした。 あれで彼の命が失われていたら、自分が彼女を慰めて……と考えている自分に気付いて、アスランは愕然とする。たとえ、その時に自分がキラを慰めたとしても、彼女の心の中からミゲルの存在を消すことなんてできるはずがない。 いや、むしろくっきりと刻まれてしまうに決まっている。 そして、自分がそれに我慢できるかというと、と考えれば答えは一つしかないのではないか。そんな自分をキラが受け入れてくれるかどうか、というとそれも答えは分かり切っているような気がする。 「……俺は、いつから……」 こんな気持ちを抱いていたのか。 アスランはただ呆然とコクピットの中でそう呟く。 それは月でキラと一緒にいた頃だったかのようにも思えるし、ヘリオポリスで再会してからのことのようにも思える。 しかし、自分がこんな風に誰かの不幸を祈ってしまうような人間だとは考えてもいなかったと言うことも事実。 そんな自分をキラには知られたくない。 「俺は……俺は……」 どうすればいいのか。その答えを見つけることもできないまま、アスランは呆然とモニターに映し出された光景を見つめていた。 「ミゲル!」 反射的にキラはコクピットを開ける。そして、そのままハッチから身を乗り出すようにして視線を周囲に彷徨わせた。 きっと、彼は近くにいる。 そんな確信がキラにはあった。 もちろん、それがただの希望かもしれないと言うこともわかっている。それでも、自分の目で確認しなければ納得できないのだ。 「ミゲル、どこ!」 そう叫びながら、さらに身を乗り出そうとする。 いっそこのまま機体から離れて彼を捜そうか。そんなことまで考えていたときだ。 「……聞こえてるって……」 普段の彼にすれば信じられないくらい弱々しいが、それでもまちがいなく本人のものとわかる声が耳に届く。同時に、何かがキラの手を掴んだ。 「ミゲル!」 視線を向ければ、見慣れたパイロットスーツが視界に飛び込んでくる。 「取りあえず、生きてるから……」 まずは落ち着け……と彼はとぎれとぎれに告げてきた。 ある意味それは彼らしくない行動だ。 「……ミゲル?」 「骨の、一本ぐらいは折れてるかもな」 さすがに、と彼は苦笑を浮かべる。 「バカ!」 そんなことを言っている場合ではないだろう! とキラは怒鳴った。同時に、彼の体を引き寄せる。 「……痛いって!」 「うるさい! さっさと先生に見てもらわないとダメでしょ」 そのためにはエターナルなりアークエンジェルに運ばなければいけない。それにはゆっくりとしていられないのだ、とキラは言い返す。 「キラ……」 「何かあったら、いやだ」 自分だけ置いて行かれるのはもっといやだ、言葉を重ねれば、ミゲルは驚いたような表情を作る。 「……悪い」 そして、謝罪の言葉を口にした。 「そういう意味じゃなかったんだが……」 「わかってるけど……でも……」 こう言いながらもキラは彼の体をできるだけ慎重にコクピット内へと移動させた。そして、そのまま自分はシートへと腰を下ろす。 「ミゲル?」 「大丈夫だ」 キラの問いかけに、シートの後ろに回っていた彼が言葉を返してくる。その言葉をどこまで信用していいのかはわからない。だが、彼を抱きかかえたままではフリーダムの操縦が難しい以上しかたがないと自分に言い聞かせる。 それよりも早くミゲルを診察してもらわないと、とそうも考えるのだ。 「こちら、フリーダム。怪我人を収容。一度帰還します」 その気持ちを抑えながら、キラはこう通信を入れる。 『こちらエターナル。さっさとそのバカを連れて戻ってきなさい。まだ生きているんでしょ?』 後始末は他の連中に任せておいていいから、とラクスが言っていたわ……とフレイが即座に言葉を返してくれた。彼女らしいその言葉にキラは少しだけ安心する。 「うん」 『わかったわ。殴りはしないけど、お小言ぐらいは覚悟しておけ、とそういっておいて』 その瞬間、背後でミゲルが嫌そうにうめく。 「ミゲル」 「わかってる。でも、俺、怒られるようなことをしたか?」 ぶつぶつと呟いている彼の様子であればまだ大丈夫だろう。もっとも、それがただの強がりだという可能性も否定はできないが。 そんなことを考えながら、キラはフリーダムをエターナルへと向けた。 |