混乱が周囲を包む。
 それも無理はないだろう。
 ブルーコスモスや地球軍だけではなくオーブやプラントにまで影響力を持っていた《ロゴス》。その構成メンバー達の私利私欲を満たすためだけに今回の戦争は引き起こされた。
 いきなり突きつけられた事実を素直に受け入れられる人間がどれだけいるだろうか。
 しかも、それを口にしたのは《ブルーコスモス》の盟主という地位にいた人物なのだ。
「……この状況をどうやって鎮めるというのかな」
 キラはこう呟く。このままでは、地球軍はもちろんザフトも混乱のままお互いを攻撃するのではないだろうか。そう思う。
 だが、少なくともザフトに関してはそれは杞憂だったと言っていい。
『私は、プラント最高評議会議長、パトリック・ザラだ。貴殿らの停戦の申し出を受け入れよう』
 少しの間をおいて、威厳のある声が通信機から響き渡ったのだ。その言葉に、ザフトの誰もが動きを止める。
『そういうことですから、地球軍の皆さんもさっさと武装を放棄してくださいね』
 しかし、それに対するアズラエルの口調は何なのだろうか。彼らしいと言えばそうなのかもしれないが……と苦笑が浮かんでしまう。
『取りあえず、あちらの息のかかった地球軍の上層部はもちろん、徹底抗戦を唱えていたブルーコスモスの幹部も捕らえてありますからね』
 無駄な動きはするな、と彼が続けたのは何か不安があるからだろうか。
「……ブルーコスモスも一枚岩じゃないってことなのかな」
 だとするならば、まだ気を抜いてはいけないのだろうか……とキラは心の中で呟く。
 それでも、やはりどこかほっとしていることは事実。
 しかし、気を抜かないつもりだったのにしっかりと気がゆるんでいたらしい。
『キラ!』
 仲間達の叫び声が聞こえる。
 反射的に視線を向ければ、こちらに向かってつっこんでくるストライクダガーの存在が確認できた。

 バッテリーの交換を終えて発進シークエンスに入ったときだ。アズラエルの言葉が聞こえたのは。
『どうするの?』
 フレイがこう問いかけてくる。
「今更やめられないだろうが! ともかく、でて、キラの側に行く」
 アスランが何をしでかすかわからないからな、と付け加えれば、フレイはあっさりと「そうね」と納得をしてくれた。それも何だかなぁ、と思いながらもミゲルは視線を前へと向ける。
「ミゲル・アイマン、出るぞ!」
 そのまま、船外へと飛び出した。
 その瞬間、自分の判断は――多少、予想とは違っていたが――間違っていなかった、と認識する。
 おそらく、停戦宣言でキラの集中力はきれてしまったのだろう。それに関しては、誰も非難できない、と心の中で呟く。むしろ、そうなる前に誰かをフォローに向かわせておくべきだったと反省をするしかない。
 彼女がどれだけぎりぎりの状況だったのか、自分が一番よく知っているのだ。
 そして、そんなキラのフォローをするのが自分の役目だったはずなのに、と唇をかむ。
「キラ!」
 だが、今はそれを考えている場合ではない。
 彼女を守らなければ、とミゲルはM−1のスピードを最速にまで上げる。
 それでも、フリーダムに損害を与えることなく相手を攻撃することは難しい。
 ならば、自分が取るべき行動は一つだろう。
「フレイに怒られるな」
 いや、彼女だけではなく、キラの保護者全員に怒鳴られるだろう……とミゲルは苦笑を浮かべる。
「キラに泣かれるのだけはいやなんだけどな」
 だが、それ以上に彼女を失う方がいやなのだ、とミゲルは呟く。
「……この状況でなら五分五分か」
 普段なら、絶対にこんな危険なかけはしないんだがな、とも思う。
『ミゲル! 無理だ』
 どうやら自分が何をしようとしているのか気付いたらしい。オルガが焦ったような口調でこう言ってくる。
「無理でもやらないとダメだろうが!」
 大切なものを守るためには、と叫び返す。
「ついでに、後のフォローよろしく」
 死ぬ気はないけど、動けなくなりそうだから……とも付け加えた。
『このバカ!』
「バカで結構!」
 あいつを守れるなら……と笑う。
 そのまま、ミゲルはM−1を強引にフリーダムとストライクダガーの間に割り込ませた。
 ダガーのビームサーベルが機体を貫く。
 とっさに、指が動いていた。
『ミゲル!』
 キラの叫びが耳に届く。
「大丈夫だって」
 そういうと同時に、ミゲルの指は最後のキーを叩いていた。

「ミゲル!」
 キラの目の前でM−1が四散する。その光景を、彼女は呆然と見つめるだけだ。
 どうやら、一足遅れたらしいカラミティがミゲルを攻撃したストライクダガーを撃破している。その光景を、キラは呆然と見つめているだけしかできなかった。



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最遊釈厄伝