どうやら、地球軍が搭載してきた核は全てたたき落とせたようだ。 しかし、と思う。 「どれだけ作ったのか、俺たちにはわからないからな」 だが、一時とはいえ休憩が取れるのはありがたい。フリーダムやジャスティスと違って、こちらはバッテリーに充電しなければいけないのだ。 もっとも、一番休ませたいのはキラなのだが……とミゲルは心の中で呟く。 だが、彼女は声をかけても受け入れてくれないだろう。だったら、さっさとバッテリーを交換して彼女の側にいるしかないのか。そんなことも考えてしまう。 「問題なのは、アスランも補給に戻る必要がないってことだよな」 ジャスティスもまた、核エネルギーで動く機体だから……とミゲルは呟く。もっとも、彼がそう簡単にキラの側に近寄れるはずがないと言うことはわかっていても、だ。 「……この隙にさっさと終わらせてくれると嬉しいんだけどな」 そうすれば、キラをもう戦場に出さなくてすむんだが……とそんなことを考えたときだ。 『ミゲル。補給の準備ができたわ。一旦艦に戻って』 フレイの言葉が耳に届く。どうやら、しっかりと管制の仕事を手に入れたらしい。もっとも、それは自分とキラ限定なのだろうが……と苦笑が口元に浮かぶ。 「りょーかい」 ともかく、ここでバッテリーが切れたら意味がない。そう判断をして、ミゲルは機体を母艦へと向けた。 小さなため息とともにアイシャは体を起こした。 「おけがはありませんか?」 そのまま視線をシーゲルへと移す。 「あぁ。大丈夫だよ」 しかし……と彼は眉を寄せる。 「私を狙っても意味はないと思うのだがね」 自分に何があろうとも、目的を諦めるようなラクスではない。むしろ、その怒りを相手に向けるだろう。彼はこういった。 「それがおわかりになるのは、シーゲル様がラクス様のお父上だから、ですわ」 普通の人間であれば、身内を盾に取られればどのような圧力だろうと屈しないわけにはいかない。少なくとも、自分がそうであれば相手もそうだと考えるに決まっている。 「もっとも、その点はラクス様もきちんと予測済みですわ」 だからこそ、自分はここにいるのだ。アイシャはそういって微笑む。 「それに、これでどこの誰が獅子身中の虫なのかもわかりますもの」 きりきりと締め上げさせて頂きます……と彼女はさらに笑みを深める。 「問題は、どれだけ時間が残されているか、だな」 「えぇ、そうですわね」 おそらく、この失敗は既にプラント内に潜んでいる《誰か》の耳に届いているだろう。そうなれば、そのものが次の手を打つ可能性はある。 だが、とアイシャは心の中で呟く。 こちらも既に、そのための手は打ってある。問題は、どちらが上手なのか、と言うことだけだろう。 「ですが、ここからは移動した方がよろしいかと」 さすがに、この状況ではゆっくりと過ごせないのではないか。そういうアイシャに、シーゲルは静かに頷いてみせる。 「では、こちらに」 そして、アイシャの促すままに彼も移動を開始した。 シーゲルの無事はパトリック達の耳にもすぐに届けられた。 「そうか」 ならば、取りあえず安心だな……と彼は頷く。 「それで、犯人の方は?」 「確保してあります。現在、取り調べを行っております」 すぐに背後関係等を連絡できるだろう……と彼は続ける。 「わかった」 ならば、そちらは任せる……と付け加えながら、パトリックはさりげなく周囲を見回す。挙動不審のものがいないかどうかを確認しようと思ったのだ。 いや、彼だけではない。 他にも数名、同様の行動を取っているものがいる。その者達はみな、パトリックの意志に賛同をしてくれている者達だ。 「……パトリック……」 タッドがさりげなく脇をつついてくる。 そのまま彼の方に視線を向ければ、微妙に視線を彷徨わせているものの姿が確認できた。 彼がそうなのだろうか。 クルーゼほどではないが、彼もまた自分が信頼していたものなのに。 だが、逆に言えばそういう人間にならなければ連中が欲しがっている情報を入手できなかった……と言うことかもしれない。 「できるだけ早く、だが、その身柄には気を付けるように」 いつ、誰が取り戻しに来るかわからないからな。その言葉の裏に隠されている意味に、仲間達だけは気付いてくれたようだ。 ならば、大丈夫だろう。 パトリックはそう判断をすることにした。 「……理事」 艦長席に座っていたバジルールがそっとアズラエルの方を振り向く。 「ようやく、来ましたか」 ずいぶんと時間がかかりましたね、と彼は言い返す。 「まぁ、それもしかたがありませんね。上層部から全て捕縛しなければならなかったようですし」 それでなくても、後ろに隠れていた連中にばれないように物事を進めなければいけなかったのだ。そう考えれば時間がかかったとしても当然のことだろう。実際、誰もそれに関しては不満を言ってこなかったのだ。 だが、もう待たなくてもよい。 「では、艦長さん。打ち合わせ通りにお願いしますよ」 この言葉にバジルールは頷いてみせる。そして、そのまま彼女は指示を出した。 その瞬間、世界は一時停止した。 |