「大丈夫……大丈夫よ、キラ」 何度も言葉を重ねながら、フレイはキラの体を抱きしめている。 いつも、戦闘が終わった後のキラはこうして誰かにすがって震えていた。しかし、ここまでひどいことは初めてではないだろうか。 あるいは……とフレイは唇をかむ。 誰かがまた、何か余計なことを言ってキラを傷つけたのかもしれない。 「大丈夫。あたしだけは、絶対にキラのことを否定しないから……」 キラが何をしても、真っ直ぐに見ていてあげる……とフレイはキラの髪の毛を梳きながら口にする。 「……フレイ……」 そうすれば、キラがぎゅっとフレイの腰に抱きついてきた。それは、小さな子供が母親にすがっているようにも思える。 「大丈夫よ、キラ」 そんなキラの肩に、フレイはそっと手を置く。 「あいつも、キラのことを待っているわ」 だから、何も心配はしなくていいの……とフレイは微笑む。 「あたしとキラは、共犯者。そして、あいつにとってキラは唯一の存在。だから、大丈夫」 キラが何をしても、あいつは笑って許すに決まっているわ……とキラが望んでいるであろう言葉を唇に乗せた。 「……フレイ……」 しかし、キラは小さく首を振ってみせる。 「キラ?」 どうしたの? とフレイはそっと問いかけてきた。 「僕……戦っている最中に、自分が何をしていたのか、わからなくなったんだ……」 それが恐いのだ、とキラは続ける。 「ひょっとして……」 「余計なことは、考えないの!」 フレイはとっさにキラの言葉を遮るように強い口調でこういった。 「フレイ」 これには驚いたのだろうか。キラが体を起こす。そのまま、彼女の顔を見つめてきた。 「あんたはあんたよ。大丈夫。疲れているだけ、だわ」 一人で戦っているのだから、しかたがないわ……とフレイはため息をつく。同時に、そっとキラの体を抱きしめた。 「フレイ」 どうしたの? といいながら、キラはフレイの頬をそっとなでてくれる。そこで初めて自分が泣いているのだ、とフレイは理解をした。 「ごめんね、キラ……あたし達に戦う力がないから……」 だから、キラにだけ辛い思いをさせてしまっている。 自分が戦えれば、きっと、こんな風にキラを追いつめることはなかったはずだ、とフレイはそう思う。 「泣かないで、フレイ……」 ね、とキラは微笑む。それが無理しているとはっきりわかるものでも、笑ってくれるだけで嬉しいとフレイは思ってしまった。 「……それはこっちのセリフよ」 キラも泣いているわよ、とフレイは言い返す。そして、そっとその頬にキスを贈る。 「あたしがここにいるわ。だから、一人で泣かないで」 キラを追いつめているのは自分たち。 だから、せめてキラを支えられるようになりたいのに。 それができない自分の力のなさに、フレイはまた涙をこぼす。 しかし、それは今だけだ。これ以上、キラの心に負担をかけるわけにはいかない。それでは、守るのではなく逆に負担になってしまうから。 自分に言い聞かせるように、フレイは心の中でこう呟く。 「それよりも、いい加減、シャワーを浴びてきた方がいいわよ」 無理矢理明るい口調を作ると、言葉を口にした。 「フレイ」 「それとも、あたしが洗って上げようか?」 隅から隅まで、洗って上げるわよ……と笑いながら付け加える。 「いいって」 この言葉に、キラは慌ててフレイから体を離した。そして、そのまま逃げるようにシャワーブースへと入っていく。 「……それにしても、厄介だわ」 その背中が、完全にドアの向こうに隠れたところで、フレイはこう呟いた。 「あたし一人で、どこまでキラを支えられるかしら」 こう言うときに、他の者達と連絡が取れないのは辛い……と心の中だけで付け加える。 「っていうか、みんながあてにならないなんて、思わなかったわ」 少なくとも、ミリィとトールだけは味方になってくれる。そう考えていたのに、とフレイはぼやく。だが、すぐに思い直すかのように首を振った。 「ダメだわね。あたしがこんなじゃ、キラが不安になるわ」 自分だけは、いつでも明るい表情をしていよう。 フレイはこう言うと取りあえず飲み物を用意しようと立ち上がった。 |