これからの話し合いと言ってもキラ自身には口を挟む隙はない。相手がクルーゼ達三人だから余計にそうなのだろうか……とも考えてしまう。 「この三人にラクス様が加わって『世界征服』と言い出したら、絶対に成功するよな」 同じようなことを感じていたのか。ミゲルがこう囁いてくる。 「バルトフェルド隊長がいたら、完璧かも」 さらにキラはこう言ってしまう。 「あぁ、そうだな」 否定できないところが恐いよな……と頷いてみせる。 「って事は……ラスボスがアスランだったりするのか?」 しかし、その後にこんなセリフを続ける彼に、キラは思わず首をかしげてしまった。 「何でアスラン?」 「……あいつがバカだから」 キラの呟きに、ミゲルはこの一言だけ返してくる。 「そんなにバカなのか?」 うちにも、ものすごい馬鹿が二人ほどいるが……と口を挟んできたのはオルガだ。 「ものすごいバカ。あのフレイの罵詈雑言をぶつけられても考えを変えようとしない位だぞ」 頭だけはいいから、余計に厄介なんだよ……とミゲルは言い返す。 「一番厄介なのは……俺たちのことを否定したがることかな」 自分と別れてからキラの側に集まった者達の存在を……と彼は付け加えた。それに関してはキラも感じていたことだから、アスランのフォローもできない。 「……そうか」 ミゲルの口調から何かを感じ取ったのだろう。オルガはこの一言だけを口にする。 「でも、僕はみんなが大好きだよ」 その口調の中に含まれている感情がいやで、キラは即座にこう告げた。彼等二人に、自分を否定するようなことだけはして欲しくないのだ。 「わかってるって。お前とフレイは、何があっても俺たちを否定しない。それを知っているから、こうしていられるんだよな」 自分は……とオルガは笑う。 「でも、キラは俺のだからな」 不意に言葉とともにミゲルがキラの体を抱き寄せる。 「ミゲル」 「……はいはい。わかっているから……」 だから、独り身の人間の前であんまりいちゃつくんじゃない……と彼はため息をついて見せた。 「それに、いい加減にしないと怒鳴られそうだ」 にらまれているぞ、俺たち……と彼は唇の端だけを持ち上げる。 「怒ってはいませんよ。あきれているだけです」 仲がいいことはいいですけどね……とアズラエルがため息をついてきた。 「まぁ、キラの精神状態がよくなるならいいんじゃないのか?」 「それがなければ、即座にけり出している」 フラガとクルーゼがその後を続けるようにこういう。 「……あの……」 それにどうしようか、とキラが口を開きかけたときだ。 「あぁ、そうでした。これは伝えておかないと」 ふっと表情を和らげると、アズラエルが先に言葉を口にする。 「あれ、実用化の目処が立ったようですよ」 この戦争が終わる頃には実用化できているだろう、と彼は微笑む。 「本当ですか?」 「えぇ。ですから、絶対にこれを終わらせましょう」 そして、今度こそ自分たちの夢を実現させるために戦おう、と彼は言い切る。そんな彼にキラは微笑みながら頷いて見せた。それがミゲルの腕の中からだったことは言うまでもないだろう。 そのころのアスランは、いつものようにフレイとにらみ合っていた。いつもと違うのは、ここにキラがいないことかもしれない。 「だから、どうして俺が待機なんだ!」 「決まってるじゃない! あんたが行くと、全部ぶちこわしになるからよ!」 せっかく、ここまでみんなが頑張ってきたのに、アスランの行動一つで全て瓦解するなんて言うことになったら、キラの苦労が全部無駄になってしまう。 そんなことになったら、キラがどれだけの衝撃を受けるかわかったものではない。 「なぜ、そう言い切れる」 「あんたが、あたし達をどう見ているか、それだけで十分よ!」 自分たちの存在が許せない。いや、それでもコーディネイターであるミゲルやニコル達はまだましな方なのだ。問題は、ナチュラルである自分たちを目の前の男が完全否定していることだろうと、とフレイは思う。 「あんたのことだから、キラが自分の知らないところで新しい友人を作るのが気に入らないだけでしょ」 できれば、自分が選んだ人間だけをキラの側に置きたいと思っている。そのくらいのことはフレイにだって十分わかっていた。他の者達も同様である。しかし、それはキラの心を殺す行為だ。それを目の前の男だけが気付いていない。 だからこそ、自分たちはこいつをキラの側に近づけたくないのだ。 「あいつが間違った道に進みそうなときに、正しい道を教えてやるのが幼なじみの役目だろうが」 アスランが即座にこう言い返してくる。 「あんたのそれは、キラの三年間を否定する言葉だって、何でわからないわけ?」 あきれるわね、とフレイは侮蔑の笑みを口元に刻む。 「あんたはキラを心配しているんじゃないわ。キラを支配したいだけよ!」 自分にとって都合のいい人形にして、すぐ側に飾っておきたいだけだわ! とその表情のまま口にする。 「独占欲なんてもんじゃない。ただの所有欲よ!」 ストーカーの方がまだ可愛いわ! とまで彼女は言い切った。 「お前……」 「何? 反論できなくなったら実力行使? 最低ね」 さっさとキラに見限れと言ってあげるわ、とフレイはさらに冷たい視線を向ける。それがしゃくに障ったのだろう。本気でアスランは腕を振り上げた。 「はーい、そこまで」 しかし、それは振り下ろされる前にラスティによって捕まえられる。 「完全にお前の負け。俺もそう思っているからな」 他の人間も同様、と彼は続けた。 「空の星になりたくなければ、自分の今までの言動についてじっくり見直してみるんだな」 でなければ、永遠にキラと話をすることができないぞ……と彼は囁く。それは、友人だという彼の温情なのだろうか。 もっとも、本人がそれを自覚しないうちは意味がないだろう。 そして、目の前の男はそれを自覚しようとしていない。 フレイはその確信があった。 でも、と心の中で呟く。キラのためにはさっさと自覚しやがれ……とそう思わずにはいられない彼女だった。 |