キラとミゲル、そしてフラガだけを伴ってクルーゼは建物の中へと足を進める。そんな彼に、ミゲルが意味ありげな視線を向けてきた。しかし、キラをあの場所に連れて行かなければ大丈夫だろう、とそう思うのだ。
「ラウ兄様?」
 どこに、とキラが問いかけてくる。
「この先に使える談話室があるからね」
 それに、もう一人待っているから……と彼は続けた。
「もう一人?」
 誰だろう、とキラは思う。おそらく、その人物はクルーゼと一緒にいたザフトの人間の眼に触れてはまずい存在なのではないか。
 そんな人物はいったい……と考えれば、答えは自ずから出てくるだろう。
「……ひょっとして」
 彼が来ているのだろうか。そう思いながら、クルーゼを見上げる。
「あいつ、ですか?」
 同じ判断をしたのだろう。ミゲルがこう問いかけてきた。
「会えばわかるよ」
 しかし、クルーゼは意味ありげな笑みを浮かべているだけだ。それがどこかフラガの表情に似ているような気がするのはキラの錯覚ではないだろう。
「……兄様?」
 そんな彼の表情に、少しだけ不安を感じてしまった。
「大丈夫だ。ただ、私も驚いたからね」
 是非とも同じ気持ちになってもらおう……と彼は低い笑いを漏らす。その瞬間、ミゲルとフラガがそろって嫌そうな表情を作る。その理由もキラにはわからない。
「遊んでます?」
 だが、クルーゼが楽しんでいるのはわかるから、確認のために問いかけてみた。
「否定はしないよ」
 また笑いを漏らしながらこういう彼に、キラは『やっぱり』とため息をつく。昔から、彼はこんな風に他人で遊ぶ癖があるのだ。それを個人的に知り合いらしいフラガはもちろん、ミゲルもよく知っているのだろう。
 もっとも、とキラは心の中で付け加える。
 彼は絶対に自分を傷つけるようなことはしない。
 それだけは信じている。だから、小さなため息を漏らすだけにした。
「本当は、外でイザークの表情を見て楽しもうかと思ったのだがね」
 そんなキラの髪にそっと手を置きながらクルーゼは口にする。
「キラだけでも十分衝撃を感じていたようだからいいことにしよう」
「……あいつでなくても、やっぱり驚くと思いますよ」
 何も知らない状態で機体から降りた瞬間のキラを見れば……とミゲルが言葉を返してきた。
「ディアッカがそうでしたからね」
 もっとも、その前に自分たちを見ていたから、そっちの方もかなり衝撃だったようだし、それにアスランがいましたから……と彼はさらに言葉を重ねる。
「……あれな。いい娯楽にはなっているぞ、クルー達の」
 正確には、フレイにやりこめられるアスランの姿が……とフラガが口を挟んできた。
「そうなんですか?」
「そうなのかね」
 キラとクルーゼの口から、異口同音の問いかけが彼に向けられる。
「本当だって。もっとも、それにラクス嬢ちゃんが加わったところは見たくないけどな、さすがに」
 はっきり言って、彼女の言葉は聞いている方も恐怖にたたき込んでくれるから……とフラガは続けた。
「ラクス様、容赦ないですからね。少しでも身に覚えがある人間にはきつく聞こえるんですよ」
 まぁ、それでもアスランがいてくれるおかげで被害が減っていると考えている人間も多いですけどね……と言う言葉は何なのだろうか。
 それ以前に、アスランの立場は何なのかとそういいたくなる。
「ふむ……やはり、アスランは問題ありか」
 困ったものだね、とクルーゼは小さなため息をつく。
「ラクス様でも矯正できないとは。どうしたものかな?」
 このままでは、自分たちが合流したらしたで、一騒動を起こしてくれそうだ……と彼は考え込むように呟く。
「隊長の顔を見れば、少しはマシになってくれる……と思いたいのですが」
「無理かもしれんな。当初の彼の態度を考えれば」
 その上、ミゲルの言葉を一刀両断に切り捨てる。
「……何をしたのさ、アスラン」
「お前のことで暴走したんだろうが……それにしては、あのころは辛かったよな」
 いろいろな意味で……と言うフラガに、キラは苦笑を浮かべて見せた。それは否定できないが、だからといってアスランを恨むつもりはない。
 プラントにいる仲間達が必要だと判断しての行動だった、と信じているのだ。
 もっとも、アスランの態度に多少辟易していたことは否定できない事実ではある。しかし、今更それを言ってもしかたがないだろう。
「それに関しては、少し考えておこう」
 いざとなれば、使える手段を全て使って、アスランがキラに近寄れないようにするだけだ……と彼は今までとは違った笑みを浮かべながらこういった。
「……本気ですね、隊長」
「当たり前だろう。私がキラに危害を加えそうな存在を、いつまでも側に置いておくと思っているのかね?」
 さらに付け加えられた言葉に、キラを覗いた誰もが苦笑を浮かべる。
「いいんですか、それで」
「何。困るのはアスランだけだだからね。私たちは誰も困らないよ」
 その言葉も何か違うような気がするんですは……とキラは心の中で呟く。
「あぁ、ここだ」
 しかし、みんながそれで納得しているので、あえて何も言えない。そんな気持ちになっていたときだ。こう言ってクルーゼが一つのドアを開ける。
「待たせたかな?」
 そういいながら足を踏み入れた彼に続いて、キラもそこに滑り込む。そうすれば、ここで待っている人物の姿がすぐに飛び込んできた。
「オルガ! それに……ムルタさん?」
 まさか彼が来ているとは思わなかった、とキラは目を丸くする。しかし、彼の方はそんなキラに穏やかな微笑みを向けてきた。
「久しぶりですね。君が元気だ、と言うことは、フレイも大活躍のようですね」
 そして、こう問いかけてくる。同時に微かに手を開く彼の仕草に、キラは素直に促される。
 真っ直ぐに近づいていく彼女の体を、アズラエルはしっかりと抱きしめてくれた。



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