ミゲル達とともにメンデルの反対側のデッキへと向かう。
 そこにクルーゼがいるらしい。そう聞いていた。だから自分たちが向かうのは当然のことだと思う。
 しかし、なぜMSでの移動なのか。
 そんなことをふっと考えたときだ。
『とはいうものの、気を付けろよ、キラ』
 回線越しにミゲルがこう呼びかけてくる。
「うん、わかっている」
 ここにいるとはいえ、これだけ広いプラントの中を全て把握しているわけではない。他に誰が侵入しているのかわからないのだ。
『まぁ、お前には傷一つ付けさせる気はないがな』
 それでも万が一と言うことがあるから、とミゲルはさらに口にした。
「大丈夫だよ。僕だって、経験を積んでいるわけだし」
 対処はできるから、とキラが言い返したときだ。わざとらしい咳払いがスピーカーから聞こえてくる。
「ムウさん?」
 その反応にどうかしたのか、とキラは問いかけた。
『いや。俺はいいんだがな? 独り身の坊主達には、今の会話はちょっときついと思うぞ』
 緊張感がいろいろな意味で削がれる、と彼は続ける。
「そう、なのですか?」
 いつもと変わらない会話だと思うけど、と心の中で付け加えながらキラは首をかしげてしまう。それでは、いつも彼等はそう感じていたのだろうか。
『気にするなって』
 クックとどこか楽しげな笑いを漏らしながらミゲルが言葉をかけてくる。
『一番重要なのはお前の精神状態だからな。他の連中のそれなんて気にしなくていい』
 第一、最近それを見るのはエターナルのクルーだけだし、彼等はむしろ推奨中だろう? と彼は続けた。
『ラクス様とフレイさんならそうですよね』
 即座にニコルが口を挟んでくる。
『そうだよなぁ。あの二人なら、むしろ応援だろう』
 キラ至上主義で、下手をしたらミゲルですら邪魔に思っているんじゃないのか? とディアッカもまた声をかけてきた。
『嫌がっているのはアスランだけ、って所か?』
 まぁ、あれに関してはその方がいいんだろうが……と彼はさらに続ける。現実を見る気持ちがない奴にはいい薬だろうが、と付け加えて、すぐに彼はため息をつく。
『全然薬になっていませんよね。あの人の場合、現実を脳内で都合よく変換してくれますから』
 現実を見て、そして自分のやるべきことを認識してくれればいいのに……とニコルもため息をついて見せた。
『いっそ、クルーゼ隊長から活を入れて頂きましょうか』
 それとも、けり出してもらった方がいいかもしれない……とニコルはさりげなく付け加えた。
「……そこまでしなくても……」
 クルーゼとあの二人が組んだら、アスランの胃が無事ですむはずがない。なぜかキラはそう思ってしまう。
 もっとも、そこまでしないとアスランは自覚しないかもしれない……と言うのは賛成できるが。
『まぁ、いずれはそうなるって』
 それまでにアスランが何かを感じ取ってくれればいいが……とミゲルも口を挟んでくる。その言葉から、彼も同じように考えているらしいことがわかった。
『今は、それよりも別のことを考えないとダメだろう』
 クルーゼが何のために危険を冒してまで直接接触をしてこようとしてくるのか。それを確認しなければいけないだろう。そう告げる。
「そうだね」
 確かに、とキラは頷く。
「ラウ兄様が自分で来るってことはかなりまずい状況なのかもしれない」
 だからこそ、自分たちはこうしているんだけど……と心の中で付け加えた。
『会ってみないと、わからないがな』
 あいつのことだから、取りあえず根回しはしてきているのだろうが。フラガもこう言ってくれる。
『と言うことで、そろそろ気を引き締めようか』
 この言葉に、誰の口からも異論は出なかった。

 できれば、ここにキラは呼びたくなかったのだが……とクルーゼはため息をつく。だが、この地で確実に彼等と話ができる場所が他にはないのだからしかたがない。そうも考える。
『隊長……』
 デュエルのイザークが声をかけてきた。
「わかっていると思うが、イザーク。誰を見かけようとも、決して攻撃をしないように」
 いいな、と彼に念を押す。
『わかっていますが……でも、いったい何をなさるおつもりなのですか?』
 そうすれば、イザークは即座に聞き返してくる。
「母君から聞いていたわけではないのかね?」
 小さな笑いとともにこう言い返す。
『母からは……隊長のご指示には必ず従うように、とのみ言われております』
 詳しい事情を聞いているわけではない、と彼は言葉を返してくる。だから、詳しい事情は聞かされていないとも。
「なら、今はそれに従いたまえ。ここで説明するには、内容が複雑すぎる」
 それに、詳しい事情を知れば、最後まで付き合ってもらわなければいけないぞ……とクルーゼは言った。
『隊長』
「もっとも、君が我々に協力してくれるのであれば、心強いが……そうだね。説明は彼等から聞きたまえ」
 待ち人が来たようだ、とクルーゼは低い笑いとともに告げる。
『フリーダムとストライク……それに、バスター!』
 次の瞬間、イザークの口から驚愕の叫びが飛び出す。それは、彼がどれだけの驚いているかを如実に伝えてくれる。
「彼の言葉であれば信頼できるだろう? 時間が許す限り話をしたまえ」
 その上でどうするか、君自身が判断をするがいい。自分たちがそうしてきたように、と付け加えた。
 それが許されなかった者達もいるのだから、とも。
「……それでも、最良の道を探そうとあがいているのだしね、みな」
 この呟きは、口の中だけで消えた。



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