ここに来てから、他の者達はよく索敵のために出撃をしていく。
 しかし、何故か自分はその任務に就くことはない。
「どうしてなのかな?」
 アスランのシミュレーションの結果を分析しながら、キラはこう呟く。
「何が?」
 即座に聞き返してくる。だけではなく、そっとコーヒーが入ったカップを手元に差し出してくれた。
「どうして、僕だけ艦内勤務がおおいのかなって、そう思っただけ」
 MSのパイロットが策敵の任務に就いているなら、自分だって……とキラは思う。
「バカね」
 しかし、フレイはそれを一蹴してくれた。
「あれは、みんなが自分の機体になれるための訓練の一環なの。あんたには必要ないでしょ」
 しかし、フラガをはじめとした者達は違う。彼等のためにも、少しでも機体になれて、その性能を引き出せるようになっていてくれなければいけない。だから、そのためにも少しでも長く機体に乗っていなければいけないだろう、と彼女は付け加えた。
「それはわかっているんだけど……でも……」
「大丈夫よ。そのためにラスティ達が一緒にくっついていてくれているんだし……そもそも、一人じゃないから、みんな」
 三人一組で動いているから、何かあってもすぐに対処が取れるだろう。その言葉に嘘はないのかもしれない。
「……うん……」
 それもわかる。でも、自分だけが楽をしているように思えてならないのだ……とキラは心の中で呟いた。
「それに、あんたがここにいれば、何かあったときにすぐ対処できるでしょ」
 フリーダムであればすぐに駆けつけられるだろうし、その間の時間であれば、彼等も持ちこたえることができるだろう、ともフレイは言う。
「そうだね」
 確かに、彼等の今の実力であれば、それに関しては心配はいらない。
 しかし、本当にそれでいいのだろうか……とキラは悩んでしまった。
 そのせいで手元がおろそかになってしまったのだろう。盛大にエラー音が鳴り響いてしまった。
「あっ……」
 慌ててキラは視線をそちらに戻す。
「だから、余計なことは考えないの、キラ」
 作業に集中しなさい……とフレイは笑いを漏らした。
「それこそ、あんたしかできない作業なんだから」
 内容が気に入らないけど……と彼女ははき出すように付け加える。
「フレイ」
 どうして、彼女はそこまでアスランを毛嫌いするのだろうか。キラはそう思う。自分は、もう彼のことは何とも思っていないのに、とも。
「しかたがないでしょ。虫が好かないんだもの」
 いろいろな意味で、とフレイは頬をふくらませる。
「あたしだけじゃなく、ミリィも同じ意見だわ」
 ミリアリアに関しては、まだ理解できるかな……とキラは心の中で呟く。彼女の大切な人を奪ったのは彼と自分なのだ。
 それでも、彼女は自分を許してくれた。
 しかし……とキラは心の中で呟く。
「そこまでよ、キラ」
 不意にフレイの手がキラの頬を包み込んだ。そのまま視線を合わせるように顔の向きを変えられる。
「フレイ」
「余計なことは考えなくていいの。トールのこともよ」
 彼はキラを守りたかっただけ……とフレイはきっぱりと口にした。考えてみれば、あの日から彼女が彼の名前をここまではっきりと口にしたのは初めてかもしれない。
「そして、それはあたし達みんなの気持ちだったわ」
 キラは自分を傷つけてまで自分たちを守ってくれた。だからこそ、トールの行動は理解できる。そして、ミリアリアもキラを恨んではいないのだ。
「あたし達だって、あの場所にいたらあの時は同じ行動を取ったわ」
 でも、アスランは違う。
 あの男は、自分がしたことを一片も悔いていない。それは軍人として当然のことなのかもしれないが、だからといって、自分たちに対する態度を変えないというのは気に入らないのだ、とさらに彼女は言葉を重ねた。
「……みんなに対する態度?」
「そうよ! 侮蔑された方がマシかもしれないわ」
 完全に無視しているのよ! と彼女は口にする。
「そんなことは、ないと思うけど……」
 少なくとも、フレイやフラガ達の存在は無視していないと思う……とキラは口にした。
「……キラにはわからないかもしれないわね」
 まぁ、あいつもキラの前でぼろを出すようなことはしないだろうし……とフレイは呟く。
「フレイ?」
「それよりも、さっさとそれ、何とかしなくていいの?」
 またエラーがでているわよ……とフレイは話題を変えようとしてくる。
「……そうだね」
 あれこれ聞きたいことはたくさんあるが、これを放っておくわけにもいかない。キラはそう判断をすると、手を伸ばす。
「ともかく……さっさとあの人達が合流してくれるとありがたいんだけどね」
 そうしたら、本気であれに自分の何が悪いのかをたたき込んでやれるのに。そう呟くフレイの言葉に、キラは少しだけ恐怖を感じてしまった。

 だが、その日は予想よりも早く訪れた。



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