そのころアスランは……と言えば、相も変わらずフレイとラクスの二人とにらみ合っていた。
「いい加減に諦めれば! キラはあんたのことを何とも思ってないんだから」
 よくても、ただの幼なじみよ! とフレイは言い切る。
「むしろ、そんな風に追いかけ回していることで嫌われた可能性はありますわね」
 そんな行為は、ただのストーカーと同じですもの……とラクスも頷く。
「そのようなファンがおりましたが、いくら『好きだ』と言われましても、迷惑としか思えませんでしたわ」
 その時の自分と同じ感情を、キラが抱いていないとは言い切れないだろう。ラクスはきっぱりと言い切る。
「心に決めた人がいる場合、他の人からの行きすぎた好意は迷惑なだけよね」
「そうですわ。特に、キラが心に抱いている傷を理解しようともしない人のそれは、迷惑なだけでしょうね」
 そして、彼女にとって何が大切なのかを理解しようとしない存在のそれは……とも二人は口にする。
 それが誰のことを指しているのか、アスランにもわかった。
 いや、これだけ露骨に言われてわからないはずがないだろう。そうも言いたくなる。
「俺の存在が、迷惑だと?」
 つまりはそういうことか、とアスランは問いかけた。
「今の貴方であれば、と言うことですわ、アスラン」
 自分の感情だけを優先して、キラにとって何が大切なのか、何に触れて欲しくないのか、それすらも見えていないだろう……とラクスは言い返してくる。その結果、キラがさらに傷つくのではないか。誰もがそれを心配しているのだ、とも彼女は付け加える。
「キラのことを知っている方が側にいれば、貴方が地雷を踏みそうなときにはさりげなく話をそらしてくださるでしょうが……貴方はそれをいやだと主張しています」
 だから、自分はもちろん、誰もがキラに会うことを許可しないのだ……とラクスは言い切った。
「キラはそんなに弱くない」
「それこそ、あんたの思いこみよ!」
 アスランの言葉に、フレイが即座に怒鳴り返してくる。
「どうして、ここでもあたしがキラと同室なのか、同じ勤務時間で過ごしているのか、考えてもいないでしょう」
 さらに付け加えられた言葉に、アスランは眉を寄せた。
「お前のワガママ、じゃなかったのか?」
 キラと離れたくない……とそう呟く。
「やはり、まだ貴方をキラと二人だけで会わせるわけにはいきませんわね」
 その瞬間、ラクスは盛大にため息をついて見せた。
「私が、一個人のワガママだけでそのようなことを認める人間だ、とそう思っていらっしゃいましたか?」
 そのまま、彼女は冷たい視線を向けてくる。
「フレイさんの存在がキラにとっては必要なのです。ミゲルも他の方々も常に側にいられない以上は」
 ミゲルにはいろいろと一人で動いてもらわなければいけない。そして、フリーダムの存在がある以上、キラにはエターナルにいてもらわなければいけないのだ、とラクスはその表情のまま口にした。
「なら、俺でもよかったのではありませんか?」
 自分ならいつでもキラの側にいられる、とアスランは言い返す。
「だから! どうして男のあんたをキラの側に置けるのよ!」
 ミゲルならばともかく、とフレイは叫ぶ。
「……そうですわね。普通、女性の側には女性にいて頂くものですわよね」
 また忘れていましたね、とラクスはさらに冷たい視線を向けてきた。
「俺とキラは、兄弟同様ですが?」
「でも、あくまでも他人です。そして、キラがそれを望みません」
 それも理解できない以上、やはりキラの側に近づけるわけにはいかない……とラクスは言い切る。
「そういうことですので……お願いしてかまいませんか?
 不意に視線をそらすと、彼女はこう告げた。
「ラクス?」
 何を……とアスランが問いかけるよりも早く、誰かが背後から彼を羽交い締めにする。
「そのまま、シミュレーターに放り込んでくださいませ。そのデーターで、キラにシステムの修正をして頂きます」
 細かいところは、自分でやって頂きましょう……とラクスは朗らかな口調で告げた。
「わかっています」
 しかし、そのためだけに自分をアークエンジェルから呼び出さないでください……と口にしたのはディアッカだ。
「すみません。ニコル様とラスティ様には、ミゲルのフォローをして頂かなければいけませんの」
 そのために今は話し合いに参加してもらわなければいけないのだ、とラクスは微笑む。
「でも、アスランを押さえ込める方はそう多くはいらっしゃりませんから」
「はいはい、俺なんですね」
 まぁ、ミリアリアにも手加減するなって言われているし……と呟きながら、ディアッカは行動を開始する。
「放せ!」
 引きずられるように移動を開始する羽目になったアスランは、反射的にこう叫ぶ。
「うるさいわよ、ストーカー!」
 ついでに頭を冷やしてくれば、とフレイが怒鳴り返した。
「一生、シミュレーターの中から出てこなくてもいいわよ、あんたなんか」
 さらに付け加えられた言葉に、アスランはとっさに言い返そうとする。
「あら、いいですわね。でも、それならジャスティスの方がよくありませんか?」
 それなら、戦闘になっても困りませんわよ……とラクスが告げる声がそれよりも早く周囲に響く。
「……諦めるんだな。口で、あの二人に互角にやり合えるのは……ニコルだけだ」
 ディアッカが、ほんの少しだけ気の毒そうな口調でこう言ってくる。それでもアスランを拘束している腕から力を抜くことはしない。
「姫さんの気持ちを、もう少し考えてやらないと……本当に嫌われるぞ」
 さらに彼はこう忠告をしてくれる。しかし、それはアスランの心には届かない。
「キラの気持ちは……俺が一番よくわかるんだ……」
 それなのに、とアスランはため息をつく。
「……本気で、そのうちラクス様に放り出されるかもな」
 生身で……とディアッカは呟いた。



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