目の前の苛立ちが日を追うごとに募っていく。 「ウズミはまだ確保できないのか!」 オーブの獅子がどこかに潜んでいるとあっては、それも無理はないだろう。だが、そんなことのために、いつまでもここに足止めをされているわけにもいかない。 「いっそのこと、宇宙にいる仔獅子を捕らえますか?」 子煩悩でも有名だったあの男のことだ。そうすれば、姿を現すかもしれない。そう口にする。 「確かに、その可能性は否定できないな」 それでなくても、彼女には使い道がある……と男達は頷いて見せた。 「オーブは、しばらくセイランに任せておけばいいのですよ。うまくいっても、失敗しても、こちらには不利益が出ませんからね」 違いますか? と付け加えれば、誰もが同意の声を上げる。 「表にだけ出しておけばよい。後は、我々の手の者にさせればいいからな」 「必要なのは、資源と技術力だけ。それ以外であれば、あれのおもちゃにしてもかまうまい」 あれもまた、五氏族の一つなのだし……と誰かが口にした。だから、オーブの国民も文句は言わないだろう、とも。 「それでは……私は空にあがらせて頂きましょう。あれらの最終テストに立ち会わなければいけませんしね」 使い物になるのであれば、量産しなければいけないだろう。そういって彼は立ち上がる。 「今の者達は、私に従属するよう、調整していますし」 さらに付け加えれば、誰もが頷く。 「お前に任せておけば安心だろうな」 「だが、それほどは待てぬぞ」 こう言いながらも、男達の関心は既に目の前の利権に向けられていることはわかっていた。 オーブの技術力を手に入れれば、新たな兵器を開発することができる。それは男達に多大な利益をもたらすはずだ。 それだからこそ、彼等は戦争に終わって欲しくないのだろう。 「……そうだ」 ふっと思い出したように男の一人が視線を向けてくる。 「あれ、もまたアスハの小娘の元に舞い戻っておるらしいの」 それが誰のことを指しているのか、問いかけなくてもわかっていた。やはり気付かれていたか、とも心の中ではき出す。 「そのようですね」 だからといって、ここで下手に否定しても逆に疑念をもたれるだけだ。そう判断をして、適当に頷いてみせる。 「……できるなら、それも手に入れたいものよの。多少壊れていてもかまわん」 「いや、壊れていた方がいいかもしれないぞ。二度と逃げ出せないだろうしな」 その後に続いた言葉には、反吐がでそうになってしまう。 「だが、あれの才能もなかなかのものだとか。それを失うのは惜しいかもしれんぞ」 わかって吐いたことだが、目の前の男達にとって自分たち以外はただの道具らしい。 「アズラエル……」 「極力、努力させて頂きますよ」 貴様達の希望なぞ叶える気はないが。アズラエルはそう心の中で呟いていた。 その報告に、誰もが眉を寄せる。 「もう一度、聞かせてくれ……」 シーゲルが口を開いた。 「……Nジャマー・キャンセラーのデーターが持ち出されました。現在、犯人に関しては捜索中ですが……本人の残した遺留品から判断して、ブルーコスモスのスパイであったことは否定できず……」 「……データーがブルーコスモスに渡る可能性もある、ということだな」 重々しい口調でパトリックが後を引き継ぐ。 「それでは、また本国に核が打ち込まれる可能性が……」 「……確かに。ならば、先にこちらから報復を」 「ダメだ! それでは、相手に口実を与えてしまうことになる」 他の者達から、次々と言葉が投げ渡される。 その言葉の先にどのような結論が待っているのか。既にパトリック達にもわからない。 だが、と彼は口を開いた。 「犯人の捜索を最優先に。それと……クルーゼに本国の防衛ラインをさらに固めるように命じておけ」 まずは、ここに住む人々の安全を最優先しなければいけないだろう。 後は……と心の中だけで付け加える。 この中にも、あちらとのパイプを持っているものがいるはずなのだ。 それが誰なのか、いまだにわからない。 だからこそ、クルーゼ達も自由に動けないのだ。 「こうなると、ウズミ・ナラ・アスハが行方不明というのは、痛手だな」 彼であれば仲介役として最適だったのに……とタッドが呟く。 「確かに」 オーブが地球軍の手に落ちてしまった以上、自分たちはこの世界で孤立しているのかもしれない。そう呟いたのはオーソンだ。 「だからといって、諦めるわけにはいかない。可能性が失われたわけではないからな」 そのために動いている者達もいる。だから、とパトリックは心の中で呟く。 同時に、彼等が無事でいてくれればいい。そうも考えていた。 「何が正義か、と言われると……なやむな」 目の前の船体を見上げながら、バジルールはこう呟く。 「だが、軍人である以上、命令には従わないわけにはいくまい」 さらにこう付け加えたときだ。 「……そんなもんにこだわっていて、本当に大切なものを失ってもいいんだ」 その時だ。彼女の耳にこんな声が届く。 「誰だ!」 視線を向ければ、地球軍の軍服をだらしなく着崩した少年の姿が確認できる。その事実に、バジルールは眉を寄せた。 「ナタル・バジルール少佐、だよな。おっさんが呼んでる」 しかし、そんな彼女の態度は気にすることなく、少年はこういう。同時に彼はある方向を指さしていた。 その先にいた人物の姿に、バジルールは別の意味で驚く。 「付き合って、くれるよな?」 そんな彼女の様子に、少年はこう言って笑った。 |