「……アスラン……着替えるから、外にいてくれる?」 当然のごとく、一緒にパイロット控え室の中に足を踏み入れてきた彼に向かって、キラはこう声をかける。 「キラ?」 どうかしたのか? とアスランは本気でわかっていないかのように聞き返してきた。その様子から判断して、彼は本当に三年前――いや、もっと前のように一緒に着替えるつもりらしい。 幼い頃ならば、それでも良かった。幼い頃は、男も女も、そう変わらないから。 でも、大きくなれば違う。 年が二桁にあがる頃からアスランの前で肌を見せるようなことはなくなった。 それを忘れているのだろうか。 「アスラン、あのね……」 自分は女だから、とキラが言おうとしたときだ。 「何をしているんですか、アスラン!」 「そうそう。そういうことをすると、ミゲルに殺されるぞ」 ニコルとディアッカの声が室内に響く。 「ディアッカ! 放せ!!」 そのまま、ディアッカはアスランを羽交い締めにしてしまった。 「キラさん。ゆっくり着替えてください。これは持っていきますから」 出てくるまで、ちゃんと確保しておきます……とにこやかな口調でニコルが言う。 「邪魔をするな! 俺とキラは」 彼のわきで、アスランがディアッカの腕から抜け出そうと暴れている。 「幼なじみな。だからといって、女性の着替えを見ていい理由にはならないだろうが」 ほら、さっさとでる! と言い返しながら、ディアッカはそのままドアの方へと移動を始めた。 「……女性?」 誰が、とアスランが呟いている。 「やっぱり、忘れていたんですね」 この人は……とあきれたようにニコルがため息をつく。 「ディアッカ」 「はいはい……力仕事は俺の役目な」 まぁ、ニコルじゃ無理だよな……と笑いながら彼はそのまま呆然としているアスランを引きずっていく。 「きっちりと話を付けてきますから」 その後にニコルが続いた。 三人の姿がドアの向こうに消えたところで、キラはほっと安堵のため息をつく。 「二人がいてくれてよかった……」 そして、こう呟いた。 「これなら、シャワーを浴びても大丈夫かな?」 着替えはあるし……と呟きながら、キラはシャワーブースの方に足を向ける。しばらくして、水音がブースから響いてきた。 着替えを終えて通路に出てみれば、そこにはアサギの姿が確認できた。 「彼等は今、カガリ様と一緒にいるから。キラさんもそちらに、って言われているけど、場所はわかる?」 どうやら、伝言を告げるために待っていてくれたらしい。 「ブリッジならわかるけど……」 ひょっとしたら、今自分が身につけている服は、彼等の中の誰かのものかもしれない。そんなことも考えてしまう。 「なら、案内するわね」 ついでに、その間に相談に乗って欲しいこともあるし……と彼女は付け加える。 「僕でわかることなら」 そういえば、彼女は大丈夫というように笑う。 「M−1のね。動作に微妙に無駄があるような気がするのよ」 それを何とかしたいんだけど、と言われて、キラも頷く。 「それなら、僕の役目、ですね」 後でデーターをもらえますか? とキラは彼女に問いかけた。 「もちろん」 助かるわ、と告げる彼女に、キラは微笑みを返した。 そのころアスランは、自分が犯罪者になったかのような気分を感じていた。 「……ニコル……」 この状況は何なのか、と思いながら、アスランはここで一番事情を知っていそうな彼に呼びかける。 「キラさんが着替えて戻ってきたら、解放して差し上げます。でないと、貴方の場合、何をしでかしてくれるかわかりませんから」 自分を尊敬している、と昔言った口で、彼はこんなセリフを告げてきた。 「それは、どういう意味だ?」 自分が何をするというのか、と言外に滲ませながら聞き返す。 「キラさんから詳しい話を聞き出そうとして、あの方を傷つけかねない……と言うだけです。ここにはミゲルもフレイさんもいませんから」 後少しすればクサナギの体勢も整う。そうなったら、キラをアークエンジェルに帰すこともできる。だが、その前に彼女を不安定にしてはいけない……とニコルは言い切った。 「……俺が、そうすると?」 「貴方の場合、無意識が一番恐いですから」 キラの傷を知らずにかきむしりかねない。その意見はフレイ達が抱いている不安と同じだ、と言うことをアスランは知らないだろう。 「ニコル!」 「違いますか? 貴方が知りたいことは、キラさんにとって知られなくない傷なんですよ」 ミゲルは同じ傷を持っている。そして、フレイは一番近い場所でそれを見てきた。だから、あの二人であればかまわないとキラは思っているはずだ。。 しかし、アスランは違う。 「……俺とキラは……」 「そう考えているからこそ、貴方はキラさんにとって危険人物なんです!」 きっぱりと言い切るニコルをアスランはにらみつける。だが、彼も一歩も退く様子を見せない。 「世界を変えるためにはキラさんの力が必要なんです。でも、それはあの人にとって苦痛と紙一重の事実なんですよ」 だから、と彼は続ける。 「そんなキラさんに、これ以上重荷を背負わせないことが、僕たちにできることなんです!」 だから、アスランでも遠慮はしない! そういう彼をアスランはただにらみつけていた。 |