眼下でカグヤが壮大な炎を上げている。
「……そんな……」
 ウズミ達が、まさかそんな行動を取るとは思ってもいなかった。
 だが、冷静に考えればそれしかないと言うことも、わかっている。
 それでも、だ。
 彼等があんな手段を使うとは思っても見なかった。あんなことをすれば、オーブは一時的とはいえ宇宙と分断されてしまうのではないか。
 それとも、自分たちが知らないところに何か手段を隠しているのだろうか。
 キラがそんなことを考えたときだ。
『キラ』
 ノイズ越しにアスランの呼びかけが届く。
 今、フリーダムを被うようにしてクサナギの外装にとりついているのはM−1ではない。アスランが乗っているジャスティスだ。
 彼の立場でこんな行動を取っていいのか……とは思うが、今更離れろと言えるわけもない。だから、後でラウに適当にごまかしてもらうしかないだろう。他力本願ではあるがそれしか方法がない、とキラは心の中で呟く。
 しかし、彼はどうしてこんな行動を取ったのだろうか。
「何?」
 そんなことを考えながらも、こう問いかける。
『ケガは……ないな』
 そうすれば、即座にこんな言葉が返ってきた。
「みんなのおかげで、ね」
 キラは苦笑とともにこう言い返す。
『そうか』
 その言葉に、アスランはほっとしたような口調でこう言い返してきた。
『キラ』
 そして、すぐに、また呼びかけてくる。
『話がしたいんだ……二人だけで』
 だが、その後に続けられた言葉に、キラはすぐに言葉を返せない。
 別に、話をするのが嫌なわけではないのだ。だが……と心の中で呟く。二人だけで話をするのは恐い。そうも感じてしまう。
「……アスラン……」
 だが、彼はそういっても理解してくれないのではないか。
 彼の中にいるのは、まちがいなくあのころの自分だけだろう。
 しかし、もう、あのころの《キラ》はいないのに、と心の中で呟きながら、目を伏せる。
『キラ、頼むから……』
 アスランはさらに言葉を重ねてきた。しかし、その必死さが逆にキラの恐怖を増長させていると彼は気付いていないだろう。
「……アスラン、僕は……」
 ここに、フレイかミゲルがいてくれればいいのに。
 そうすれば、きっとどうすればいいのかをフォローしてくれるのではないか。そう思ってしまうキラだった。

 同じ頃、フレイはフレイで不安のあまり癇癪を破裂させる寸前まで行っていた。
「フレイ、落ち着いて……ね?」
 それは、ラミアスの配慮だろうか。側にいてくれるミリアリアがこう声をかけてくるほどだ。
「……わかっているけど……でも、キラがどうしているかと思うと我慢できないの!」
 キラにとって、戦闘がどれだけ負担になっているのかはよく知っている。その中でも、一番不安定になるのは戦闘後なのだ。そんなときは、いつも自分が抱きしめて安心させてやっていたのに、とフレイは付け加える。
「あの状況ではしかたがないって言うのはわかっているわよ! でも、あいつと一緒なの、キラは!!」
 あの疫病神と! とさらに付け加えれば、ミリアリアも表情を強ばらせる。
「……あれ?」
「そう、あれ」
 彼女の表情に、フレイは『しまった』と思う。
 ようやく痛手から抜け出そうとしたミリアリアにとってあれは鬼門なのだ。
 もちろん、あれがキラにとって幼なじみで、ミゲル達の仲間だとはわかっている。それでも、自分たちにとって見れば友人の仇だと言うことは否定できないだろう。
 戦争ではしかたがないことだ、とはわかっていても納得できるかどうかは別問題だよな……とミゲルですら言ってくれたのに、とも思う。
「あれと一緒に、クサナギに収容されるしかないのはわかっているけど……でも、あたしが見ていないところで、あれがキラに何を言ってくれるかと思うと、思い切り不安なの!」
 最悪、キラの治りかけている傷までかきむしってくれるかもしれない。
 その時、彼女がどうなるか。
「今ですら……一人で寝られないのに、キラは」
 それでも、最初の頃よりはよくなったのだ。
 あそこから助け出した後、キラはどんな些細な時間でも一人になることを怖がっていた。特に、眠るときはそれがはっきりと現れてたと言っていい。
 でも、それは無理もないだろう。
 意識を奪われた後次に目覚めたときにはもう、大切な人たちを奪われていたのだ、彼女は。
 また同じ事が起きるのではないか。
 その不安から、不眠症に陥りかけたキラを必死につなぎ止めたのは自分だ。
 そんな自負がフレイにはある。
 もちろん、自分だけの力ではない。だが、彼等が離れて行かざるを得なかったときもキラの側にいたのは自分だ、とそう思う。
「……でも、あちらには確か、ニコルさんがいるわよ」
 ふっと思い出したようにミリアリアが口にする。
 見かけが可愛らしくて――と言っては、本人に申し訳ないが――物腰が柔らかく、何よりもナチュラルである自分たちにも普通に接してくれる彼であれば、きっと、キラのフォローをしてくれるのではないか。ミリアリアはこう付け加える。
「そうね」
 彼はミゲルが絶対に仲間に入れたかった人間らしい、とも聞いていた。だから、大丈夫だろうとそう思う。
「あれも、彼は苦手らしいし……キラのことを聞いて思い切り怒ってくれていたものね」
 だから大丈夫だろう。
 フレイは自分に言い聞かせるように心の中で呟いていた。



INDEXNEXT



最遊釈厄伝