現在、キラとアスランの間には、ラスティとニコルがさりげなく割り込んでいる。そして、キラ自身はと言えばミゲルとフレイの間にちょこんと腰を下ろしていた。 アスランが近づこうとすれば、さりげなく手前の二人が邪魔をしてくれる。その事実が気に入らない。 だが、今はそれを我慢してでも話を聞かないわけにはいかないだろう。 アスランは自分にそう言い聞かせていた。 しかし、だ。 相手の方もそうだとは思わないらしい。 「ミゲル、ちょっと!」 いきなりフレイがキラの肩を抱き寄せながら、アスランを指さす。 「本気で、あの自分勝手で自分の世界しか見ない奴を仲間に引き込むの?」 あいつのせいであたし達がどれだけ迷惑をしていたか、わかっているでしょう! と彼女はさらに付け加える。その言動に、アスランはむっとしたような表情を作った。 「誰が自分勝手で、自分の世界しか見ていないって?」 「あんたに決まっているじゃない!」 アスランの恫喝にもひるむことなく、フレイはこう言い返してくる。 「……フレイ……」 困ったように、キラが彼女の名を呼んだ。その様子から判断をすれば、いつもはそれで収まっているのか。それはそれで腹立たしい、と思う。 「何言ってるの! 勝手な思いこみと逆恨みで、ヘリオポリスから地球までの間、アークエンジェルに民間人がいることを誰にも知らせなかったんでしょ!」 あの人が手加減をしてくれて、なおかつキラがいてくれたから自分たちは無事に地球までたどり着くことができたんだ、とフレイは怒鳴るように主張をする。 「……まぁ、それに関しては……」 「否定できませんね。僕も、オーブに潜入してラスティに会うまで、知りませんでしたから」 クルーゼ隊の中で、一番、アスランに近い位置にいたと思っていたのに、と口にしたのはニコルだ。 そんな彼が殺されたと思ったからこそ、自分はキラを殺そうとまで思ったのに……とアスランは心の中で呟く。それなのに、自分が知らないところで彼はキラ達にとけ込んでいた。その事実は気に入らない、と思う。 いや、ニコルだけではない。 ラスティもそうだろう。 だが、一番気に入らないのは、当然のようにキラを抱きしめているミゲルだ。 本来であれば、あれは自分の役目だったのではないか。少なくとも、月にいた頃はそうだった。 キラは気付いていなかったかもしれないが、彼女が《女》だと言うことはそのころから気付いていた。しかし、何か隠さなければいけない理由があったらしいと母が言っていたからこそ、あえて知らないふりをしていたのだ。 だが、もし、キラが自分が『女だ』と言ってくれたら、その時は……とそう考えていたことも事実。 それなのに、と思いながら、アスランはキラを見つめる。 「それで……どうしてこうなっているのか、きちんと説明してくれるのか?」 そのためにここに集まっているんだろう? と問いかけた。 「そうなんだがな」 小さなため息とともにミゲルが口を開く。 「お前に、どこまで話していいものか……こっちとしても判断が難しくてな」 ラスティやニコルに関しても、そうだったが……と彼は続ける。 「俺はとっくに死んだはずの身の上だったからな」 「……僕は、そうするのが一番だと思ったのですけど……そのせいで、誰かさんが暴走をしてくださるとは思いませんでしたから」 ラスティの言葉はともかく、ニコルのそれは素直に聞いていられない。何か、思い切り棘を含んでいるように思える。 「何が言いたい?」 「別に」 アスラン書きにすることではありませんよ、取りあえず……とニコルは口にした。 「まぁ、あんたはここじゃ歓迎されてないってことだけは覚えておいた方がいいわよ」 しかし、そんな彼に向かって、またフレイがこう言ってくる。 「フレイ!」 「本当のことでしょ! あいつがもっと早く動いていたら、少なくともあの人達は死なずにすんだかもしれないのよ!」 シャトルのことだってそうだ! と彼女はアスランのわからないことを口にした。しかし、それでキラが表情を強ばらせている。 「それでなくたって、トールのこともあるわ!」 戦闘だからしかたがなかったのかもしれない。でも、とフレイは叫ぶ。 「……ひょっとして、あの子の恋人を殺したのって……」 何か思い当たることがあったのだろうか。ディアッカが呟いているのが聞こえた。それはフレイも同じだったらしい。 「そいつよ!」 そもそもの元凶も、全てそいつ! とフレイは言い切る。戦争が始まる前、キラがあそこに連れ去られる原因を作ったのは、とさらに付け加えた。 「フレイ?」 彼も知らない事実なのだろうか。ミゲルが確認のために呼びかける。 「……フレイ、それは……」 アスランは知らなかったんだし……とキラが慌てたように彼女に言葉をかけた。 「そうかもしれないけど、そいつのうかつな行動がなかったら、そもそも、キラはあんなことをされずにすんだのよ? キラのご両親だって……」 ここまで来て、アスランはここにキラの両親がいないことに気付いた。もっとも、それはアークエンジェルが戦艦だから、かもしれない。しかし、一言も彼女の口から両親の話を聞いていない、とアスランは心の中で呟く。 「キラ……おじさまとおばさまは?」 聞いてはいけないのかもしれない。 だが、聞かないわけにはいかないだろう。 そう考えて問いかける。次の瞬間、キラが浮かべた表情が、その答えだった。 |