事前に情報が与えられていたとはいえ、戦闘の激しさは変わらない。
 どれだけ準備を重ねていても、行うのが人間だから、だろうか。それとも、地球軍に予想外の新型が存在していたからか。
「……え?」
 だが、その中の一機の様子がおかしい。まるで、何かを伝えようとしているように感じられるのだ。
「まさか、と思うけど……」
 彼なのだろうか。キラはそう思う。しかし、それをどうやって確認すればいいのだろうか。
 そんなことを考えていたときだ。強引に通信がつなげられる。
「……オルガ……」
 モニターに映し出された顔に、キラは思わずこう呟く。
『取りあえず、そのままばれない程度に攻撃をしてこい』
 その間に、データーを送るから……と彼は囁いてきた。それがどれだけ危険な行為かもわかっているから、キラは素直に頷く。そうすれば、即座にデーター着信の表示が現れる。
『それと確認。バジルールって奴は、信用していいのか?』
 さらに付け加えられた言葉に、キラは一瞬悩む。だが、それでもすぐにしっかりと頷いた。
『了解。あの人には、そういっておく』
 うまくいけば、取り込めるだろうよ……と付け加えられた言葉に、キラは微笑んで見せる。
「わかった。気を付けてね」
 この言葉に、オルガは頷く。
 同時にデーターの送信が終わったようだ。
『さっさと、そっちに合流したいがな。もう少し、かかりそうだ』
 馬鹿が尻尾を出さない……と彼は続ける。
「うん。早く、みんなそろうといいね」
 そんな風に、ある意味ほのぼのとした会話を交わしているとは思えないほど、二人の機体は激しい交戦を繰り返していた。だが、よくよく見れば、微妙な角度で攻撃がそらされている。その事実に気づいているものはどれだけいるだろうか。
 これだけ高速で動いている以上、気付かれていない可能性の方が高い。
 しかし、とキラは微かに眉を寄せる。
 コーディネイターである自分と互角に戦うなんて、システムのことを差し引いてもかなり肉体を切り刻まれたのではないか。
 そんなことを考えてしまう。
 でも、それを憐れむわけにはいかない。それでは、彼の選択を否定してしまうことになるだろう……とキラは判断をする。だから、きつく唇をかみしめることでその思いを口に出すことを阻んだ。
「……もう一機?」
 オルガに致命的な損傷を与えないようにするだけでもぎりぎりなのに、もう一機戦闘に絡んでこられては、とキラは忌々しいと言うように眉を寄せた。
『シャニ! 邪魔をするな』
 それはオルガも同じだったらしい。
『これは俺の獲物だ! 手を出すな!!』
 さらに付け加えられた言葉にも、相手は聞く耳を持たないらしい。
 これならば、一度退いて体制を整えるしかないかもしれないな、とそう心の中で呟く。
 だが、予想外の乱入はこれだけではすまなかった。
 天空から真紅の機体が自分たちの間に割っては言ってくる。
『キラ・ヤマト……だな?』
 それが、自分たちの関係を別の意味で混乱に陥れてくれることになるとは、まだ誰も予想しないなかった。

「……アスラン、かよ」
 アークエンジェルメンバーの中に紛れ込みながら、ミゲルは忌々しそうに呟く。
「キラさんを傷つけなければいいのですが」
 一番最後まで彼と行動を共にしていたからだろうか。ニコルが眉を寄せながらこう呟く。
「その時は、俺たちが割ってはいればいいんじゃねぇ?」
 もっとも、先にフレイとカガリがそうしそうだが……とラスティが笑ったときだ。
「何で、お前ら……生きてんだよ!」
 驚愕の叫び声が三人の耳に届く。声の主が誰かなんて、確認しなくてもわかってしまう。
「そりゃ、オーブの人たちに助けられたからな」
「最初から、そういう計画になっていたし」
「お姫様を守るのは、男として当然のことです」
 三人がそれぞれきっぱりとした口調でこう言い返す。もっとも、若干一名、顔とセリフが一致していないような気がしなくもないが、誰もそれを指摘はできない。
「……足はあるから、幽霊じゃないぞ」
 にやり、と笑うとミゲルはそのまま視線を戻した。次の瞬間、彼の眉が思い切り寄せられる。
「まったく、あの人は」
 何をしているんですか、とニコルが拳を握りしめた。
「よりによって、あんなことをするか?」
 セクハラで営巣ものだろう、とラスティもあきれている。
「女に疎い奴はこれだから」
 ディアッカですらあきれたようにこういった。
「あんた! 公衆の面前でセクハラするんじゃないわよ!!」
 フラガさんでもしたことがないのに! というフレイの怒鳴り声がそんな彼等の言葉に被さる。同時に、破裂音が周囲に響き渡った。
「さすがは、フレイ」
 キラのこととなると、相手が誰だろうとお構いなしだな……とミゲルは笑いを漏らす。
「とはいうものの、説明が面倒になりそうだから……行くか」
 キラのことはフレイに任せておけばいい。それに、自分の言葉なら、アスランも耳を貸してくれるのではないか。ミゲルはそう判断をして歩き出した。
「あぁ、それなら付き合いますよ」
「そうだな。三人セットの方がインパクト、でかそうだし」
 あいつもあれこれ頭が冷えてちょうどいいんじゃねぇ? とラスティは笑う。それに、ミゲルは苦笑を返した。
「……俺も付き合うぞ。何がどうなっているのか、きっちりと説明してもらうからな」
 さらにディアッカまでもが参戦してくる。そんなメンバーを前に、アスランがどのような反応を返すか。
 それを周囲の者が目にするまで、三十秒ほど間があった。

「な、何で、お前らまで生きているんだぁ!」
 アスランの雄叫びが夕焼けに吸い込まれていった。



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最遊釈厄伝