スカイグラスパーのシステムを確認していた時だ。
 聞きたくないと思っている音が艦内に響き渡る。それに、キラはびくり、と体を震わせた。
「……キラ……」
 めざとくそれを見つけてしまったのだろう。フラガが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫です」
 無理矢理笑顔を作ると、キラは立ち上がった。
「でも……まだ、スカイグラスパーは実戦には使えないと思います……」
 また、少佐は待機です……と申し訳なさそうに付け加える。
「お前さんは……俺としてはお前さん一人戦場に放り出さなきゃない方が申し訳ないんだがな」
 巻き込んだのに、フォローすらしてやれない……とフラガは眉を寄せた。
「少佐」
「すまんな」
 それでも、キラに戦ってもらわなければいけないのだ、と彼は続ける。
「いえ……僕が、自分で決めたことですから」
 だから、といいながら、キラはスカイグラスパーのハッチから抜け出した。そのまま、控え室へと向かう。
「キラ! エールが使えない。ランチャーで出撃してくれ!」
 そんなキラの背中に向かって、マードックの声が飛んできた。
「わかりました」
 使えない理由もわかっているから、とキラは言い返す。そうすれば、マードックはあからさまにほっとしたような表情を作る。
「……どうしたんだろうな、曹長……」
 別段、エールが使えない程度で不満を言うわけがないのに……とキラは思う。それとも、別のことを心配しているのだろうか、彼は。
「信頼、されていないのかな?」
 今まで生死をともにしてきたのに、それだけでは不足だったのだろうか。そう考えれば、悲しくなる。
 それとも、別の理由からなのだろうか。
 だといいのだが、と思いながら、控え室に足を踏み入れる。
「フレイ?」
 何故、彼女がここにいるのだろうか。そう思う。
「キラ」
 ふわりと微笑むと彼女はそのままキラに駆け寄ってきた。そして、キラに抱きついてくる。
「気を付けてね、キラ」
 そして、こう口にした。
「うん。わかっているよ、フレイ」
 心配しないで、とキラは言い返す。ここで自分が死んでしまっては意味がない、ということもわかっているのだ。
「ならいいけど」
 それでも、まだ不安なのか。フレイは不安そうな表情を浮かべている。そんな彼女を安心させたいが、もう時間がない。
「フレイ、ごめん」
 出撃しないと……と付け加えれば、彼女は小さく頷いて見せた。
「ごめんね、キラ。余計なことで時間をつからせちゃったわ」
 でも、絶対に帰ってきてね、と彼女は続ける。
「そう思っているのは、あたしだけじゃないんだからね」
 みんなだって、そう思っているわ……と言う言葉に、キラは微笑みを作った。
「わかっているよ」
 もっとも、心の底からそう思ってくれている人間がどれだけいるかというと問題だけど、とキラは心の中で呟く。
 既に地球上に降りてきているのだから、自分は必要がない。そんなことを言っている人間がいることも、キラは知っている。
「……だから、なのかな?」
 マードックがあんな事を言ったのは。きっと、キラがその事実を知っていると、彼が気付いているからだろう。
「キラ?」
 どうかしたの? とフレイが問いかけてくる。その手には、いつの間にかキラのヘルメットが握られていた。
「後で考えればいいことだよ」
 その時は、相談に乗ってくれる? とキラは問いかける。
「いいわよ」
 だから、絶対に帰ってくるのよ……とフレイはまた告げた。
「約束するよ」
 手早く軍服を脱ぎ捨てて、代わりにパイロットスーツを身につけていく。いつの間にか、フレイの前では肌をさらすことも気にならなくなっていた。
「はい、キラ」
 襟元まで止めたところでフレイがヘルメットを手渡してくれる。
「地上での戦闘は初めてなんだから……無理はしないでよ!」
 本当に心配しているんだからね、と付け加える彼女にキラは静かに頷いて見せた。
「今、僕にそういってくれるのは、フレイだけだね」
「キラ……」
 思わず漏らした言葉に、フレイが微かに表情を曇らせる。
「それも、僕が自分で選んだことだから……フレイが気にすることじゃないよ」
 いつもの口調で『頑張ってこい』といってくれると嬉しいな、とキラは微笑んで見せた。それに、フレイは小さなため息をつく。
「本当にあんたは……」
 そして、何かを口にしようとする。だが、それを彼女は飲み込んだ。
「わかっているわね! ケガ何かして帰ってきたら、ただじゃすまないんだから!」
 あんたの取り柄は、その顔なんだから! といつもの勢いでフレイは怒鳴る。それが、たとえ無理矢理作られたものでもかまわない。彼女が自分の言葉を受け言えてくれた証拠だから。
「行ってくるね、フレイ」
 だから、こう言うと全てを振り切るように駆け出した。



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